政府が「ゼロコロナ」政策を事実上終了し、久しぶりに制限のない旧正月「春節」を迎えた中国の人々。コロナの震源地と呼ばれた武漢の街が封鎖されてから3年間、ため込んだエネルギーを一気に放出するかのように、歴史的な「大移動」が始まっています。その数、なんと21億人とあって、「爆買い」パワーをひきつけようと、各国が争奪戦を繰り広げています。一方、世界中からラブコールを送られる中国人の好みや行動に、「異変」が生じているとの報道も。日本にも影響があるのでしょうか?コロナ禍で中国人観光客は変わった!「爆買い」よりも「サステナブル」中国の旧正月にあたる「春節」。3年ぶりに制限がない長期休暇を迎える人々の気持ちは、どこに向かっているのでしょうか?故郷に帰って家族と再会する人や、先延ばしにしていたビジネス出張や留学目的で海外に渡る人が多いなか、待ちに待った海外旅行に飛び出す中国人観光客の動向に世界中が注目しています。Weareseeingrecord-highdemandfortravelwithopenborders(渡航制限が解除されて、旅行への記録的な需要増が見受けられる:米CNN)ChinesearebackbookingoutboundtravelfortheLunarNewYearholiday(春節で、中国人が海外旅行に戻ってきた:中国旅行メディア)LunarNewYear:春節中国人観光客が世界で落とす「チャイナマネー」は莫大です。コロナ禍前は、海外旅行者数が断トツでナンバー1。2019年の中国人海外旅行者は1.7億人で、2546億ドル(約32兆7000億円)もの大金を落としてくれたほどですから、各国がもろ手を挙げてラブコールを送るのも理解できます。実際、タイは「withopenarms」(両手を広げて)中国人観光客を歓迎していますし、ウインタースポーツが盛んな欧州オーストリアでは、北京冬季五輪で魅力に目覚めた中国人スキー客の誘致に力を入れているそうです。そんななか、「最近の中国人はちょっと違うよ」と、従来の「中国人観光客像」に固執する観光ビジネスに「警笛」を鳴らす声も広がっています。TheChineseoutboundtouristwillnotbethesameastheywerebefore,youhavetoprepareandadoptfor(中国人海外旅行者は、以前と同じではない。準備して備えておくように:中国メディア)コロナ禍の行動制限で、自宅で過ごす時間が圧倒的に増えた中国の人々。流行に敏感な若者を中心に価値観が変わり、海外旅行に求めるニーズも変化していると言うのです。たとえば、中国人観光客の「代名詞」だった団体旅行の人気が衰え、個人旅行のニーズが高まっています。「団体行動」では物足りない旅慣れた人が増えて、自由に行先やスケジュールを決められる個人旅行にシフトしているそうです。この3年間、たっぷりと時間をかけて情報収集できたことも個人旅行人気に拍車をかけているとか。「中国人観光客が行かないところ」が2023年春節の「人気旅行先」だ、と伝える記事もありました。さらに、「新しい中国人観光客」は、環境に関する意識が高いことも特徴だそうです。サービスが充実したゴージャスなホテルよりも環境に配慮したシンプルなホテルを、車でドライブするよりも自転車で観光することを選ぶなど、よりサステナブルな旅行スタイルを好むようになったと分析されています。お金の使い方にも変化が現れています。免税店や高級ブランド店で「爆買い」するよりも、その地域ならではの文化や生活に触れたり、地元ならではの食事を味わったりする「経験」に価値を見出しているようです。まさに「モノ」より「コト」を優先する、「新しい」価値観の人たち。団体で免税店に押しかけて、「爆買い」をする姿を目にする機会は減るのかもしれません。航空券は「クレイジー」な価格!「燃やすほどお金を持っている人」だけが海外旅行に行ける?世界各国が「withopenarms」(両手を広げて)中国人観光客にアピール合戦を繰り広げるなか、2023年の「春節」で海外に旅行できる人は、一部に限定されているのが現状です。特に「阻害要因」とされているのが航空チケットの高騰ぶり。政府の渡航制限撤廃が急だったこともあり、まだ中国と各国間の航空路線は「正常化」しておらず、コロナ前の水準には程遠い便数しか運航していません。そのうえ、「解禁」と同時に予約が殺到したことから、航空チケットがコロナ前の数倍に跳ね上がり、すっかり「高嶺の花」になっているそうです。また、旅行ビザや団体旅行の制限もあり、この時期に中国を脱出できるのは「luxurytravelers」(お金持ちの旅行者)だけ、だとか。ある上海の旅行業者は、航空チケットは「crazy」(バカげた価格)になっていて、「peoplewhohavemoneytoburn」(燃やすほどお金を持っている人)だけが海外旅行に行ける、「notme」(僕はいけないけど)と、現地メディアの取材に本音を語っていました。こうした状況下で、日本に中国人観光客が本格的に戻ってくるのは「まだまだ先」になりそうです。専門家は、航空便の本数が「コロナ前」の本数に近づき、航空チケットの価格が落ち着いて、地方出身の団体旅行客に動きが出始める春先まで、日本への「大移動」は先延ばしになるだろう、と予測しています。つまり、3年ぶりの「春節」に日本にやってくる中国人観光客は、「お金が有り余った」リッチで新しい価値観の人たち。街中で中国人観光客らしき人を見かけたら、ついついガン見してしまいそうです。そんな野次馬根性を見透かすように、「新しい中国人観光客」に良い第一印象を与えることが今後の観光業の発展を左右する、という海外専門家のアドバイスを目にしました。一般的な旅行者に先駆けて訪れる彼らが、帰国後に好意的な発信してくれると、その後の観光に追い風になるとか。「これまで、観光客が足を向けなかった地域こそ、人気観光地になる可能性がある」と聞くと、明るい気持ちになります。ちなみに、彼らに良い第一印象を与えるキーワードは、「体験」「サステナブル」だそうです。それでは、今週のニュースな英語は「withopenarms」(もろ手を挙げて)を使った表現を紹介します。大歓迎をしている様子を伝える慣用句で、ビジネスの場面でもよく使われます。NovakDjokovicwelcomedwithopenarmsatTheAustralianOpen(ノバク・ジョコビッチは、全豪オープンで大歓迎された)AmericanswelcomedPrinceHarrywithopenarms(アメリカ人は、ヘンリー王子を好意的に受け入れている)InternationaltourismmarketswelcomeChinesetouristswithopenarms(国際観光業界は、中国人観光客を、もろ手を挙げて歓迎している)2022年12月の訪日外国人客が約3年ぶりに100万人の大台を超えた、というニュースが飛び込んできました。ピーク時の約半数まで回復した日本の「インバウンド」ビジネス。「体験」「サステナブル」を求める「新しい中国人観光客」を魅了することができるのか。世界各国の奪い合いはしばらく続きそうです。(井津川倫子)
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