2024年 4月 24日 (水)

日産とルノー、いびつな「不平等」ようやく解消...仏政府も支持 熾烈なEV化競争の渦中、勝ち残り容易でなく

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   日産自動車に対するフランス自動車大手ルノーの出資比率に関する交渉がようやく決着した。合意に至る過程はなかなか複雑だった。

   三菱自動車を含む3社連合は維持されるが、自動車業界は大きな転換期にあり、勝ち残るのは容易ではない。

  • 日産とルノー、資本関係の見直しが決着
    日産とルノー、資本関係の見直しが決着
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フランス会社法の規定で議決権がなかった日産

   J-CAST 会社ウォッチ「日産とルノー、資本関係見直し...日産が求める『不平等解消』へ、協議進んだ『2つの要因』と『今後の交渉ポイント』」(2022年10月28日付)でも報じたとおり、2022年秋に入り、日産とルノーの交渉は大詰めを迎え、11月にも合意すると見られていた。だが、予定より3か月ほど遅れて合意に達し、23年2月6日、3社首脳がロンドンでそろって記者会見して発表した。

   合意は、仏ルノーから日産への出資比率を、現在の43%から、日産が保有するルノー株の比率と同じ15%に引き下げ、互いに対等な資本関係にする。そのほか、ルノーが設立するEV新会社「アンペア(アンペール)」に日産が最大15%出資。さらに、中南米やインド、欧州で新型車やEV投入の検討など、共同プロジェクトを進めることなどが盛り込まれた。

   最大の眼目である出資比率の「平等化」には、昨秋の記事でも取り上げたように、「歴史」がある。

   2兆円超の有利子負債を抱え経営危機に陥った日産は1999年、ルノーから約6000億円の資本支援を受け、カルロス・ゴーン元会長が最高執行責任者として送り込まれた。ゴーン氏は、大リストラを断行して経営を立て直し、2016年には燃費不正問題で経営が悪化した三菱自動車に日産が出資し、3社連合となった。

   両社の株の持ち分は、ルノーが日産の43%、日産がルノーの15%を、それぞれ持ち合う形になったが、日産はフランスの会社法の規定で議決権がなかった。ところが、業績面では22年の世界販売台数が日産322万台、ルノーグループ205万台というように、日産が上回るいびつな関係が続き、日産には「不平等条約」との不満が強かった。

   日産とルノーのトップを兼ねるようになったゴーン氏が2018年に東京地検特捜部に金融商品取引法違反疑いで逮捕(日本からレバノンに逃亡し、刑事訴追は停止中)され、両社の関係は混乱する。

   19年にはルノー株を15%保有する仏政府の意向を受けたルノーが日産に経営統合を提案、日産の強い反発で白紙に戻るなど、ぎくしゃくした関係が続いていた。

今回の交渉は、ルノー側から提案...背景に、EVシフトへの出遅れ

   交渉には双方の都合があり、当然ながら、それぞれが納得してまとまる。資本関係見直しは日産側の悲願であり、その意味で日産の都合なのだが、今回の交渉は、意外にもルノー側がきっかけを作った。

   関係者によると、ルノーが2022年初め、日産に「EV新会社立ち上げ」の方針を伝えて協力を求めてきたという。

   この背景にあったルノー側の事情とは、欧州で急速に進む電気自動車(EV)シフトへの対応だ。

   欧州でのルノーの販売シェアは最大手の独フォルクスワーゲンの半分にも満たず、EVでも出遅れている。巻き返すには経営資源をEVに集中する必要があると判断、そこで頼りにしたのが日産の資金と技術というわけだ。

   要請を受けた日産は「資本関係の見直し問題の進展」を協力の条件にし、両社の協議が本格化した。

   交渉にはルノーの筆頭株主のフランス政府の影もちらついたが、23年1月、マクロン仏大統領は岸田文雄首相と会談した際、出資比率見直しを支持すると伝えたとされる。

   フランス政府がルノーの日産への支配力の低下を容認した背景には、EV化競争を勝ち抜くには日産との協力が不可欠との認識がある。「3社連合が機能しなくなれば、ルノーがEV開発競争から脱落し、自動車産業に従事する国内の雇用にも響くことをフランス政府は何よりも恐れた」(業界関係者)との見方が一般的だ。

   交渉で最後まで障害になったのが、昨秋の記事でも指摘した知的財産の扱いだった。

   ルノーのEV新会社には米国の半導体大手クアルコムも出資し、ルノーは米グーグルとの協業も進める方針だ。日産は技術が第三者に流出することを警戒した。最終的にルノーが、新会社での知的財産の利用を制限する譲歩案を提示し、折り合ったという。

ライバルと戦える体制は整った...日産「ルノーを気にせず事業戦略に集中できる」

   今回の合意により、ルノーはひとまずEV化競争で戦える体制を整えたといえる。

   一方、日産はどう変わるのか。

   内田誠社長は2月6日の会見で「新しい体制が相互の信頼を深め、モビリティーの未来に向けて我々の共通の野心を加速させられる」と語った。業界関係者は「ルノーを気にせず事業戦略に集中できる意味は大きい」とみる。

   ただ、EV化のほかに自動運転などを含め、自動車業界は100年に一度の転換期を迎えている。業界内の合従連衡に加え、グーグルやソニーといった異業種からの参入も相次ぎ、競争は熾烈を極める。

   日産は22年6月に国内で発売した軽自動車のEV「サクラ」が23年1月末時点で約3万7000台を受注する好調な出足だった。5年間でEV化に約2兆円を投じ、30年度までに世界の販売車種に占めるEVとHVの比率を計50%以上に高める目標も掲げている。

   ただ、トヨタ自動車やホンダと比べ稼ぐ力はなお乏しく、研究開発費でも見劣りする。日産であれ、ルノーであれ、単独で現下の競争を戦えるわけではなく、それゆえの3社連合維持でもある。

   資本をめぐる緊張関係は緩和されたとはいえ、3社の連携をどう再構築し、世界の強豪に伍していくのか、日産やルノーに残された時間は多くないだろう。(ジャーナリスト 済田経夫)

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