2024年 4月 26日 (金)

ソニーGの吉田会長兼CEO=十時社長の2トップ体制、うまくいくか? 過去ふるわなかった「会長=社長」体制の教訓から飛躍へ(大関暁夫)

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   ソニーグループ(以下、ソニー)の社長交代報道に、ちょっとした関心を持ちました。社長を5年務めた吉田憲一郎氏から十時裕樹副社長兼CFOに、バトンが渡るとの発表です。

   吉田氏は、「失われた20年」と言われた長期にわたるソニーの低迷期からの復活を先導した平井一夫前社長を右腕として支え、2018年にその後を継いで社長に就任しました。

   エレキ、エンタメ、金融等、多岐にわたるグループ内事業の相乗効果、いわゆるコングロマリット・プレミアムの醸成をめざし経営体制を再構築し、それを象徴するように社名もソニーグループに改めました。

   業績は、22年3月に営業利益で過去最高益となる1.2兆円を計上するなど絶好調。ホンダとの業務提携でEV事業への本格参入を果たすなど、次なる成長戦略への取り組みも余念がない、そんな近況でもあります。

体制強化の背景...急速かつ複雑化した外部環境の変化に、適切な舵取り

   今回の人事で特筆すべきは、吉田氏が社長職を十時氏に譲るものの、自身は会長として引き続きCEOは兼務する点です。すなわち、相談役的な役回りで会長を務めるのでなく、引き続き最高経営責任者として経営の指揮を執るということのようです。

   一方の十時氏は、社長職に就くとともに従来のCFO(最高財務責任者)と、かつ現在空席となっているCOO(最高執行責任者)を兼務するといいます。すなわち、吉田会長=十時社長の二頭体制で「経営分業」を実行する、と理解することができるでしょう。

   実際に社長交代会見で吉田氏は、「今、外部環境は非常に変化が激しくなっている。このタイミングで経営体制を強化する必要があると判断した」と今回の人事を説明。それが単なる社長交代ではなく、「会長=社長体制」への組織マネジメント体制の移行であることを表明しています。

   コロナ禍、カーボンニュートラル、地政学的リスク等々への対応など、過去に例をみないほど急速かつ複雑化した経営環境の変化に対して適切な舵取りをしていくには、今こそ「経営分業」が必要と判断したということなのでしょう。

   ここで少し不思議に感じるのは、「経営分業」を実践する時に吉田氏の相方が十時氏でいいのかという点です。なぜならば十時氏は、技術系企業ソニーにあって吉田氏と同じ文系役員であり、CFOという吉田氏の右腕的存在というだけでなく、そのキャリアから受けるイメージがほとんど吉田氏のそれとダブるからです。

   単純にCFOから社長に昇格するという点だけでなく、過去に一度、グループ企業に出て子会社マネジメントを経験した後に本体に呼び戻され、財務面から組織を支えてきたという経歴がほぼ同じであり、吉田氏はまるで自分の「分身」をイコール・パートナーに選んだかのように映るのです。

過去の「出井=安藤体制」「ストリンガー=中鉢体制」からの学びとは

   あくまで内部事情を知らぬ立場からの浅い考えかもしれませんが、企業の立て直し期は文系的マネジメントが必要であったとしても、長い「ソニー冬の時代」を経て、ようやく完全復活した今なら、「技術のソニー」としてはいよいよ技術系トップを据えて管理だけではなく、開発の面からも組織をリードするのが良いのではないか、と。そうとらえるのは、私ばかりではないように思います。

   ただ、先にも申し上げた通り、今は企業経営にとって未曽有の難局であり、それを乗り越えつつ成長戦略を描いていくには、やはりマネジメントに強い管理系経営者がより力を発揮する時代なのかもしれないということも、理解できる部分ではあります。

   実はソニーでは過去にも2度、「会長=社長」の「経営分業」を実行しています。

   最初は2000年の出井伸之会長兼CEO=安藤国威社長体制、二度目は05年のハワード・ストリンガー会長兼CEO=中鉢良治社長体制です。前者のケースでは、デジタル社会の急進展にソニーが後れを取って戦略が空回りし、市場が予想だにしていなかった急激な業績悪化により、03年に「ソニーショック」という証券市場の大暴落を引き起こすという大失策を招いています。

   ちなみに、出井氏も安藤氏も共に文系役員であり、その意味では今回の吉田会長兼CEO=十時社長体制と類似しています。のちに出井氏は自身の著書『迷いと決断』の中で、「ツートップ体制により求心力が分散した」と文系ツートップ体制が自身の戦略上最大の失敗であった、とこれを振り返っています。

   この体制の「失敗」を受けてスタートしたストリンガー=中鉢体制は出井氏の置き土産的新体制で、ストリンガー氏が文系、中鉢氏が技術系という文理分業タイプの「経営分業」だったのは、出井氏自身の反省に立ったものだったように思われます。

   しかし結果的には、これも思うようにいきませんでした。米国人文系リーダーと日本人技術系リーダーとの分業は、国民性の違いという点がいかんともしがたく、ツートップの意思疎通に問題があったようで、この分業は全く機能することなくソニーは引き続き長い冬の時期を過ごすことになったのです。

   吉田氏は「出井=安藤体制」も「ストリンガー=中鉢体制」も幹部社員として目のあたりにしているわけで、その学びの上に立って今回の「吉田=十時、二頭体制」に至っているのは間違いないでしょう。

   すなわち、急速かつ複雑な変革の時に必要なマネジメントとして、自己の「分身」に既存戦略の維持・進行を委ねつつ、自らはCEOとして成長戦略の指揮を執るべきというのが、過去の学びを以て至った結論だったのかと思います。

   果たしてこの「分身二頭体制」による経営分業が、功を奏するのか否か。日本のトップ企業のマネジメントとして、大いに注目に値すると思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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