「今の仕事経験で成長できる気がしません」と訴える部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE32(後編)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE32」では、「今の仕事経験で成長できる気がしません」と訴える部下への対応に悩むケースを取り上げます。

「カラーバス効果」の活用を促す

   <「今の仕事経験で成長できる気がしません」と訴える部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE32(前編)】(前川孝雄)>の続きです。

   心理学では、人の心にはカラーバス効果があるとされています。これは、自分が意識している情報ほど、向こうから自分の目に飛び込んでくる、というものです。すなわち、人の脳は特定のことを意識することで、五感で得た情報の中から特定情報を積極的に認識していくということです。

   わかりやすい例では「新しいスマホに買い替えよう」と意識していると、電車の吊り広告でも新聞の折り込みチラシでも、スマホの広告が気になって目に入ってくるといったことです。したがって、「いま、自分は〇〇をテーマにして学ぼう」という課題意識をはっきりと自覚することによって、同じ体験の中からでも学ぶべき情報が吸収しやすくなるということです。

   私が雑誌編集長時代に、ヒット番組を連発していたTVプロデューサーにインタビューした際、こんなやりとりがありました。

   経験されてきたお話があまりにも面白く、惹き込まれたため、「なぜあなたは、そんなに面白い経験ばかりできたのですか?」と聞いたところ、こう答えられました。

「私の日常生活は、みなさんと変わりありません。ただ違いは、つねにアンテナを張り『面白いネタはないか。同じ出来事をいかに面白いネタに変えようか』と考えていることです」

   自分の中のアンテナ次第で、経験から得られる学びが変わるのです。

   上司は、週次ミーティングでその週の学習テーマを決めたなら、場面を問わず常にそれを意識していくように促しましょう。

   前編で述べた「アンカリング効果」は、学ぶ対象、目的、方法などをしっかり意識して「錨」を下ろし、じっくり集中して実験しながら学ぶこと。こちらのカラーバス効果は、学ぶテーマを常に意識しておくことで、いつでもどこでも広角的に自由に学ぶこと...と識別し、活用しましょう。

五感で学ぶことの大切さ~暗黙知からの学び

   経験から学ぶ際のポイントを、もう一つ。

   本や映画、ドラマなどからの二次体験ではなく、一次体験で自ら経験して学ぶということは、自分の五感すべてを使って学べる点に、大きな価値があります。直接の一次体験は、間接的な二次体験に比べてインパクトが強く、その体験を自分の中にしっかりと焼き付けることができるのです。

   言葉や文字で他者に説明できる形式知に対して、体得はしていても言葉では上手く他者に説明しにくい「暗黙知」があります。楽器の演奏や車の運転など自分では難なくできることでも、その方法や感覚を人に説明して教えることは難しいのです。

   つまり、学習には形式知で成り立つ部分ばかりではなく、直接の体験でしか得られない暗黙知の領域もあるのです。傍観者ではなく、当事者として積極的に経験すること、それも五感を使って全身でどっぷりと浸って経験してみることが大切なことを教えましょう。

   なお、ここまで述べてきたこととは矛盾を感じるかもしれませんが、意図的な経験が大切な一方、意図せざる体験のなかにも予期せぬ学びを得られる機会もあります。

   決して相反する考え方ではなく、両方に価値があるということです。意図的経験と同時に、偶然の経験と学びが成長の方向やキャリア観のプラスの変化を生み出す可能性があることも、伝えていきましょう。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。

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