2024年 5月 3日 (金)

「共働き社会」の実現こそが出生率上昇につながる

性別分業の克服、すなわち「共働き社会」への移行が問題解決の鍵

   著者は、日本で性別分業が長く維持され続けてきた事情を、日本の労働市場の特性から説明する。

   日本の場合、1970年代以降の低成長の時代を、幸いなことに、欧米諸国と比べて極めて低い失業率で乗り切ってきた。それを可能にしたのが、①企業内での配置転換などによる雇用調整(内部労働市場)と、②パート、アルバイトなどの非正規雇用(外部労働市場)の活用であった。日本では、この2つのアプローチを組み合わせることで、正規雇用の夫の雇用を守り、その妻が低賃金ながら、柔軟に、働き始めたり、やめたりすることができる状況を維持してきたのである。

   しかし、こうしたメカニズムは中高年世代にとっては有効な支えとなったが、若い世代にとっては、正規雇用への途を狭め、また、非正規雇用の待遇を低く抑えることにつながり、日本の晩婚化、ひいては少子化を深刻化させたという。

   晩婚化、少子化については、こうした経済要因に加えて、女性の高学歴化による結婚観の変化(結婚のハードルの上昇)、欧米で見られるような成人後の独立志向の乏しさ(親との同居志向)なども拍車をかけている。

   しかし、1990年代後半以降は、結婚後も働く必要があるとの意識が女性側に目立ち始めているし、男性側でも、結婚しても働いてくれる女性を求める人が増えている。つまり、若者にとって、女性の労働が「結婚生活を妨げるもの」ではなく「結婚生活を成り立たしめるもの」へと意識の転換が進んできているのである。

   結婚をめぐる意識は、ようやく変わりつつある。しかし、カップルとなった後、子どもを持ち、育ててゆこうとする夫婦が増えるためには、経済的にやっていける見通しが立たなくてはならない。著者の言葉を借りれば「共働き戦略」が成り立つ必要がある。

   つまり、男性正社員の賃金が伸び悩む中で、男性正社員とパート労働をするその妻という構図ではなく、女性がそれなりに高い賃金で仕事が続けられる、あるいは労働市場が柔軟で、女性が出産を機に一度仕事を辞めても、ある程度条件のよい仕事に復帰できるという見込みがなくてはならないのだ。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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