2024年 4月 23日 (火)

認知症克服の道筋を示す希望の書

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   ■「アルツハイマー病は治せる、予防できる」(西道隆臣、集英社新書)

   最近、しばしば 「人の名前が覚えられない」、「思ったことが言葉として出てこない」など、記憶力の衰えを感じる。「ついうっかりが多い方へ」といったサプリメントの広告も、以前なら鼻で笑っていたが、ちょっと本気で考えてみるかという気持ちにすらなる。

   連れ合いとの会話も、お互い固有名詞や一般名詞抜きで、「あれ」、「それ」を多用しながら済ましていることにふと気がつき、「認知症」という言葉が決して他人事ではなくなっていることに気づかされる。

   評者が旧厚生省に入省した30年前、認知症高齢者(当時は痴呆性老人と呼称)の問題が注目され始め、初めて報告書がまとめられた(痴呆性老人対策推進本部報告)。当時(1985年時点)の認知症高齢者は59万人、これが30年後には185万人に急増すると推計されていた。 しかし、30年を経ないうちにその数は462万人(2012年)となり、団塊の世代が後期高齢者に到達する2025年には約700万人(高齢者の5人に1人)に達すると推計されている。

   今や認知症に要する医療・介護費用は年間14兆円を超えるとされ、認知症問題は個人にとっても社会にとっても避けて通ることのできない切実な課題となっている。

   本書は、認知症の7割を占めるとされるアルツハイマー病研究の最前線に立つ科学者による最新リポート。平易な言葉で、わかりやすい上に、2025年には「アルツハイマー病は治せる、予防できる」と語る希望の書である。

「アルツハイマー病は治せる、予防できる」(西道隆臣、集英社新書)
「アルツハイマー病は治せる、予防できる」(西道隆臣、集英社新書)

アルツハイマー病の発生メカニズム――脳細胞にゴミが溜まり、脳の機能が失われる

   休みなく働く私たちの脳の細胞では、常にゴミ(アミロイドβ:タンパク質の一種)が出ている。脳にもゴミの処理システムがあり、脳内で分泌される酵素(ネプリライシン)によって分解され、血液中に流されていくが、加齢に伴って、この酵素の働きが弱くなったり、この酵素自体が減ってしまうことにより、機能しなくなっていく。その結果、脳細胞にゴミが溜まり、次第に脳細胞はその毒にやられて死滅してしまう。こうした状況が繰り返されることで、細胞死が起きた部位が担っていた脳の機能が失われ、認知症の症状が発生する。アルツハイマー病はざっとこういうメカニズム(アミロイド仮説)で生じるという。

   このメカニズム、加齢が原因だから、特定の誰かに起きているのではなく、だれの脳でも起きている。認知症は全員がなり得る病いであり、異なるのは、若くして発症するか、認知症が発症する前に別の病気で亡くなるかの違いに過ぎない。90歳まで生き延びた方をみると、実に2人に1人以上が認知症を発症している。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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