「パッチギ!LOVE&PEACE」
井筒監督が描く 在日朝鮮人の強烈な「生」へのエネルギー

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   「パッチギ」とは喧嘩の頭突きのことだそうだ。第一作は1968年の京都を舞台に朝鮮学校の生徒と日本人学生の喧嘩に明け暮れる日常を描いていた。在日の女子学生と日本の若者とのロマンスも微笑ましく、大衆に受け入れられてヒットとなった。

(C)2007「パッチギ!LOVE&PEACE」パートナーズ(シネカノン/ハピネット/SHOW OX/読売テレビ/メモリーテック/エイベックス・エンタテインメント/TOKYO FM)
(C)2007「パッチギ!LOVE&PEACE」パートナーズ(シネカノン/ハピネット/SHOW OX/読売テレビ/メモリーテック/エイベックス・エンタテインメント/TOKYO FM)

   続編となるこの作品は6年後の74年。スケールはもっと広がる。前作に引き続きリ・アンソン一家が難病を抱える小学生の息子の治療のため、東京の江東区枝川の朝鮮人町に引っ越して来る。その子の治療費を稼ぐためにアンソンが密輸をしたり、その妹のキョンジャが在日を隠して芸能界へ(文字通り)身を挺して飛びこんだりといった一家親戚の子供に対する愛情や同情からの行動、冒険、悪行に驚き、笑い、涙する。冒頭とエンディングには、この映画の「売り物」の右翼や体育会系の日本人との大乱闘。見終わればなかなかの出来だと認めざるを得ない。

   しかし気になるのは、時代を1944年の戦時中に引き戻して描かれる、済州島での朝鮮人の強制徴兵と慰安婦のための女性の拉致である。徴兵はあったかも知れないが、アメリカ議会で騒がれていて安倍訪米で最大論点とされた、強制連行された慰安婦の問題は灰色だ。朝鮮人の慰安婦はあくまでも花街の女性たちや日本の農村にもあった貧困の娘たちの自主的な行動だと筆者は信じる。

   アンソン(井坂俊哉)たちが生きる74年は「オールウェイズ」ブームの真っ只中。当時の懐かしの風景をバックにドラマは進行する。20歳まで生きられない筋ジストロフィーを病む息子のチャンス(今井悠貴)。悲劇の子供を中心に展開するストーリーは波乱万丈で面白い。芸能界に入った妹のキョンジャに扮する中村ゆりが良い。楚々とした顔立ちに似合わず気が強く、在日を隠さなければ芸能界で生きて行けない悩みを見事に演じている。彼女を取り巻く汚い芸能の世界。身体を求めるTVディレクター、監督にプロデューサー。惚れた人気俳優の野村健作(森田健作をもじった?)に、韓国人だから結婚なんて飛んでも無いと言われるシーンは観客もショックだ。

   最高のパロディは劇中劇「太平洋のサムライ」。中身は石原慎太郎の「俺は、君のためにこそ死ににいく」。愛国精神満々の石原映画にも登場する特攻隊員に、お国のために散って、とのセリフではなく「生きて帰って来てね」と言いたいと監督と揉めるシーンが盛り上がる。慎太郎映画を井筒監督は批判している。これぞLOVE&PEACEのテーマなのだ。

   主演の井坂俊哉は直情径行型の主人公を好演。朝鮮家族の中の唯一の日本人、ノーベル役の藤井隆は東北弁丸出しの朴訥な青年がうまく、潤滑油を演じる。子役の今井悠貴はセリフは下手だが表情が良い。大スターは一人もいない。皆新人か脇で活躍している俳優を井筒監督は見事なハーモニーで纏め上げている。

   監督の井筒和幸はTVのレギュラー番組で他の監督作品をこっぴどく扱き下ろしているので生半可な作品などは出来ない。親子兄弟親戚を巻き込んだ「命」の問題を喧嘩、対決などの荒っぽい手段を通じてLOVE&PEACEに纏めあげ、暖かく描いている佳作だ。プロデューサーは、韓国映画を日本に根付かせたシネカノンの李鳳宇。彼自身も在日でパッチギシリーズには特に力が入っている。

恵介
オススメ度: ★★★★☆
パッチギ!LOVE&PEACE
2007年日本映画・シネカノン配給・2時間7分・2007年5月19日公開
監督:井筒和幸
出演:井坂俊哉 / 西島秀俊 / 中村ゆり / 藤井隆
公式サイト:http://www.pacchigi.jp/
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