2024年 4月 26日 (金)

「グラストンベリー」
世界最大のロック・フェスティバルに集う奇妙な人々

   イギリス「グラストンベリー」で毎年開かれる世界最大級のロック・フェスティバルのドキュメンタリー映画。グラストンベリーはイギリス南西部サマセット州にある小さな町だ。

(C)2006 Glastonbury Festivals Limited (C)2006 Newhouse Nitrate Production Limited
(C)2006 Glastonbury Festivals Limited (C)2006 Newhouse Nitrate Production Limited

   「ロック・フェスティバルはドイツやフランスではやっていない。アメリカもウッドストックで2回だけ。もう30回もやっているのはここだけだ。こういうコンサートはイギリス的だからだ」と主催者のマイケル・イーヴィス。彼がサマセット州の農夫というのが面白い。きっかけは、1970年にイーヴィスが自分の農地で始めた個人的なコンサート。最初の観客は1500人だった。だが30年以上経った今、世界中から20万人を超す人たちが集まる。

   コンサートのドキュメンタリーといえば、マイケル・ワドリーの「ウッドストック」(1970年)やマーティン・スコセッシ監督がThe Bandの最後のコンサートを撮った「ザ・ラスト・コンサート」(78年)など多数ある。しかしいくらエアロ・スミスが出て来ようと、ボブ・ディランがギターをかき鳴らそうと、ただ歌うのを追うだけではつまらない。

   この映画が面白いのは、ミュージシャンの姿を追うのは1/3だけで、残りは演奏をバックに観客を撮っているからだ。雨に降られた泥沼のような野原で泥んこになっている人たち、素っ裸の男女、麻薬の売人、ジャグラー、サーカスまがいのショウ、ミニコンサートなどを流れるようなカメラで紹介する。

   無料で見てやろうと塀を乗り越えてくる観客たちに驚く。金が無い訳でも惜しい訳でも無い。厳重な警備の目を潜り抜け、高い金網の塀をよじ登って会場に潜り込むスリルを味わいたいのだ。残念ながら、画面の"密入国者"はガードマンに捕まって油を絞られる。野外コンサートで一番困るのはトイレだ。簡易トイレの前はいつも満員で、その近くで男たちの立ちションベンの一斉放射。糞尿汲み取りの映像や尿にまみれた多量の糞のクローズアップまで入る。

   弁護士、音楽会社の重役、家族連れなどキチンとした観客から学生、兵士、ホームレスまがいの人たちまで種々様々。彼らへのインタビューを通して映画全編のストーリーを構築している。カメラの数は無数。フィルムもVHSも、家庭用のシングル8の素材もあり、71年から05年までの映像をその変化も解説しながら見せてくれる。35年間の時代の推移、音楽の変化も映像はとらえている。肝心のミュージシャンは古いバンドから新しいものまで34のグループの曲が紹介される。レディオヘッドやパルプ、そして真打のデヴィッド・ボーイやビョークなど、ヴァラエティに富んでいる。

   出演者は皆低いギャラで出演し、収益から数百万ポンドが慈善団体に寄付される。2時間半を超えるが最後まで楽しめる作品だ。監督はセックス・ピストルズのドキュメンタリー「NO FUTURE A SEX PISTOLS FILM」を撮ったジュリアン・テンプル。

恵介
★★★★☆
グラストンベリー(GLASTONBURY)
2006年イギリス映画、ポニー配給、2時間38分、2007年6月30日公開
監督:ジュリアン・テンプル
出演:デビッド・ボウイ / ビョーク
公式サイト:http://www.glastonbury.jp/
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