2024年 4月 19日 (金)

政治漂流2010参院選 
「小泉改革」は「悪」だったのか このままだと日本は破滅する
日本総研情報サービス専務の辛坊正記さんに聞く

増税だけでなく明確な成長戦略を示せ

――小泉改革といえば郵政民営化を思い出します。一方、最近では「民営化後退」と評される郵政改革法案が「成立目前」という情勢でした。

辛坊 郵政民営化は、特に郵便貯金の問題で、官の不効率な資金の運用から、民の効率的運用へと資金を回し活力を生み出そうという、改革の象徴的存在でした。この路線の後退は、日本のじり貧を加速させると思います。
   ほかに、製造業への派遣解禁など労働力の流動化問題にも小泉内閣は取り組みました。本来は正社員も含めた形で流動化を考えるべきですが、日本のように解雇に厳しい制約があると企業は人を雇おうとしない、という状況の中、そうした傾向に一部にせよ風穴を開けたのです。

――先ほど小泉改革を全肯定する訳ではないと言われたのは、どういうマイナス面があるからですか。

辛坊 労働力の流動化のところで、解雇された人への目配りが後回しになったことです。解雇された人たちが、次の活力ある企業へ転職するには、自分たちのスキルを上げるために勉強や研修をする必要があります。そのための施設整備や補助、さらに転職が決まるまでの一定期間のセーフティーネットの構築・充実が必要でした。
   小泉政権後、セーフティーネットのあり方を議論するべきだったのに、流れは次第に「雇用を守る」規制強化に進み、今では実際に強化されました。これでは、企業は「日本では人は雇えない」「海外で人材を確保しなければ」と、逆に日本の労働者に厳しい現実しかもたらさないのでは、と懸念しています。一部ではそうした傾向がすでに現実化しています。

――菅直人首相は、政府の借金や社会保障費の確保の問題について、「消費税増税」という「耳当たりの良くない」話に踏み込むことで「覚悟」を示そうとしています。

辛坊 増税論と、構造改革を含む成長戦略の必要性とは別物です。構造改革をして、日本が競争力を保てる国にしない限り、増税で一時的に計算上の辻褄を合わせても、またその段階から新たなじり貧が始まるだけです。いずれ新たな増税が必要になります。明確な成長戦略を示すことが重要です。

――与党民主党を始め、参院選を前に各党が示す成長戦略を比較する際、有権者はどういう点に気を付けるべきでしょうか。

辛坊 「みんなバラ色」式の、数字の提示がない絵空事は信じないことです。お金は有限です。何かに力を注げば、ほかの何かは我慢しなければなりません。じり貧の日本を建て直すには、ズルズル今までと同じことをしていても何も変わりません。コレをするにはいくらかかり、そのためには、代わりにアレを止めるとか、その分増税になるとか、具体的なメリットと痛みを明示できているかどうかをチェックする必要があると思います。年金など将来の不安を取り除く取り組みも重要です。

辛坊正記さん プロフィール
しんぼう まさき 1949年、大阪府生まれ。一橋大商学部卒業後、住友銀行へ入行。慶応義塾大経営管理研究科1年制課程修了。コロンビア大学経営大学院修士。住友銀行アトランタ支店長、住友ファイナンスエイシア社長、住友銀行国際金融法人部長などを歴任。現在、(株)日本総研情報サービス代表取締役専務。2010年、弟で読売テレビ解説委員長の辛坊治郎さんと共著で「日本経済の真実 ある日、この国は破産します」を出版した。

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