2024年 4月 24日 (水)

登録メンバー全員が県外出身者 夏の甲子園はまるで「大阪大会」

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   夏の全国高校野球が開幕した。球児たちは大会初日から、ロンドン五輪の日本勢の活躍に負けないほどの熱戦を繰り広げている。

   出身地の高校の勝敗が気になったり、懸命に応援したりする人は少なくないだろう。だが「ふるさとの代表校」のはずが、登録メンバー全員が他地域から来た生徒で占められている学校があるのが現実だ。

リトルリーグが盛んで野球のすそ野が広い地域性

甲子園では熱戦が繰り広げられている
甲子園では熱戦が繰り広げられている

   親元を離れて、別の地域の野球強豪校に進学して甲子園を目指す。いわゆる「野球留学」は今に始まったことではない。大リーグ、テキサス・レンジャースで活躍するダルビッシュ有投手は大阪府出身だが、宮城県の東北高を選んだ。プロ野球、東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手は兵庫県の中学から北海道の駒大苫小牧に進み、2年生の夏に優勝を勝ち取った。私立の甲子園常連校ともなれば、国内各地から優秀な選手が集まってくるだろう。

   大阪10人、兵庫5人、岡山2人、和歌山1人――。これは、2012年8月8日に開幕した第94回全国高校野球選手権大会に出場している香川県代表の私立校、香川西の登録メンバー18人の出身地だ。「週刊朝日増刊号・甲子園2012」に掲載された同校のチーム紹介欄に、地元中学の名前はひとつもない。島根県代表の立正大淞南も大阪9人、鳥取3人、兵庫、神奈川各2人、岡山、奈良各1人とやはり地元ゼロだ。明徳義塾(高知)、光星学院(青森)、鳥取城北(鳥取)、東海大甲府(山梨)なども県外者が多数を占める。

   目立つのは、大阪出身者の多さだ。スポーツジャーナリストで、自身も小中学生に野球の指導経験がある菅谷齊氏に聞くと、「大阪ではリトルリーグが盛ん」な点を理由に挙げる。伝統的に、小さい頃から野球に取り組める土壌が整っているようだ。すそ野が広い分、有望な子どもも多く出やすい。

   だが大阪は、181校が1枚の甲子園への切符を争う全国有数の激戦地だ。府内の強豪校に必ず入れる保障もなければ、たとえ入学してもレギュラーの座をつかめるとは限らない。それならば、比較的甲子園へ行きやすい別の地域へ「留学」する手はある。例えば、2012年の鳥取県大会の出場校は全国最少の25校、島根県は39校だった。一方、私立校によっては甲子園出場校という「ブランド」を磨いて、多くの生徒を集める経営戦略を立てるところもあるようだ。

   香川西や立正大淞南以外にも、福工大福井は大阪出身者が11人に上る。あまりの多さにインターネット上では、「大阪第2代表、第3代表じゃないか」と揶揄する声が上がった。一方で、香川県出身の男性はJ-CASTニュースの取材に対して「過度でなければ、野球留学は賛成」と話す。北海道に初めて優勝旗をもたらした駒大苫小牧は、兵庫出身の田中将大投手が支えていたことを考えると、香川西に力量のある選手がそろっていれば香川県に全国制覇のチャンスが出てくるというのだ。もし、チーム編成を地元出身者だけに限定すれば「甲子園はいつも大阪か神奈川が優勝してしまいますよ」。

「夏の甲子園は、都道府県代表が競い合う舞台」

   菅谷氏は、高校側が才能豊かな子どもをスカウトする際、親の意向が大きく影響する点を指摘する。小、中学生の年齢では、自分の責任において自由に進路を決められない。「お子さんなら絶対、甲子園に行けますよ」とスカウトから言葉をかけられて「コロっと参ってしまい、野球留学させる親はいます」と話す。本当にその子の将来のためになるかどうかを見極める責任が、親にはあるはずだと言う。最近では高校側が「地元中学の出身者」を強調するため、入学させる予定の子を、その高校が建つ地域に中学生のうちに転校させ、卒業後に迎え入れる「手の込んだ方法」(菅谷氏)もあるそうだ。

   だが野球から離れれば、例えば千葉県在住で東京都内の私立高校に通うといった例は少なくない。他のスポーツでも「留学」のケースは見つけられるだろう。野球だけをことさら批判するのはおかしい、との意見があるのは事実だ。

   日本高等学校野球連盟(高野連)は2007年11月30日付の文書で、高校野球特待生制度に関する取り扱い内容を公表した。高野連加盟校が「野球の能力が特に優秀である生徒に対して、入学金、授業料その他これに類する負担金を免除する制度」と規定する。これは、選手や部員が学費や生活費といった金品を受け取ることを禁じていた日本学生野球憲章の当時の規則に抵触しないとした。一方で、特待生の人数は各学年5人以下とすることが「望ましい」と定め、2012年度から本格実施が始まった。制度上、特待生として野球留学することは問題ないわけだ。

   それを踏まえたうえで菅谷氏は「夏の甲子園は、都道府県の代表校が競い合う舞台のはず」と強調する。地域色を排して純粋に強豪校が選抜されて優勝を争う大会であれば別だが、夏の高校野球の出場校は「ふるさとチーム」のイメージがついて回る。「県代表と言っておきながら、その県の出身者がひとりもいないというのは、大会の趣旨と離れているのではないか」と疑問を投げかける。

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