2024年 4月 28日 (日)

「論文ねつ造世界記録」日本人トンデモ医師処分 「173編創作」なぜ可能だったのか

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   「iPS細胞を使った世界初の治療を行った」のはウソではないか、という疑惑で大騒ぎの昨今だが、これに先行して2012年6月、日本の医学会で「トンデモねつ造」が明らかになっていた。

   なんと200編近くの論文をねつ造したという医師がいたのだ。ここまで大規模なねつ造は世界的にも例を見ないが、なぜこんなことが可能だったのだろうか。

東邦大学の諭旨退職処分を受けていた

   論文をねつ造したとされるのは麻酔科医師の藤井善隆氏(52)だ。藤井氏は東海大学医学部医学科を卒業後、東京医科歯科大学大学院の医学研究科に入学。卒業後は取手協同病院と牛久愛和総合病院で勤務したほか、東京医科歯科大学医学部麻酔蘇生科助手、筑波大学麻酔科講師を歴任し、海外の学術誌にもたびたび論文が取り上げられた。12年2月までは東邦大学医学部第一麻酔科准教授を勤めていた。

   公益社団法人日本麻酔科学会(JSA)の「藤井善隆氏論文調査特別委員会」が2012年6月29日に発表した資料によると、11年7月、海外ジャーナルから東邦大学あてに藤井氏の論文のねつ造疑惑の調査依頼があった。調査の結果、藤井氏が牛久愛和総合病院で行ったとされる8論文の研究について、倫理委員会の承認を得ずに実施したことがわかり、東邦大学は藤井氏を12年2月29日付で諭旨退職処分とした。

   その後、海外の複数の麻酔科関連ジャーナルが、藤井氏が関係する168編の論文について統計学的に分析した結果、データの正しさに疑問が生じたなどと発表した。

「あたかも小説を書くごとく」論文を作成

   JSAは12年3月に藤井氏論文調査特別委員会を設置。藤井氏の全論文249編のうち212編を調査対象とし、論文内容、生データ、実験ノートなどの資料の精査、研究実施施設での研究関連記録の調査、関係者の面接調査を実施した。4月には、192編の論文の調査を求める海外23ジャーナルの編集担当理事の連名文書が、東邦大学や筑波大学、東京医科歯科大学など国内7施設あてに届いた。

   3月、6月の2回行った藤井氏への面接では、本人はねつ造を認めなかった。しかしデータなどの調査の結果、多くの論文について、研究対象が1例も実在せず、薬剤の投与も行われず、研究自体が実施されなかった「あたかも小説を書くごとく、研究アイデアを机上で論文として作成したもの」(JSA「調査結果概要」)という事実が明らかになった。委員会はこれを受け、「ねつ造あり」が172編、ねつ造されたかどうか判断できないものが37編だったとの調査結果を発表した。ねつ造は1993年の臨床研究2編を皮切りに、2011年までの19年間にわたって行われていたという。なお、「ねつ造なし」と断定できる論文はわずか3編だった。

   藤井氏はねつ造した論文の業績を大学の採用に利用したほか、公的研究費を得たり、企業主催のセミナーの講師を務めて講師謝礼を受け取ったりしていた。

   東邦大学が藤井氏を諭旨退職処分にしたあと、さらに「ねつ造」が拡大したわけだが、同大ではこれを受けて重い処分に変更するなどはしていないとのことだった。

「大学の名に傷付く」ねつ造見逃された可能性も

   米科学誌「Science」が運営するサイト「ScienceInsider」によると、これまではドイツの麻酔科医、ヨアヒム・ボルト氏の約90編が、1人の著者の論文撤回数の最高記録と思われていた。藤井氏の172編がすべて撤回されると、その記録を大幅に塗り替えたことになり、なんとも不名誉な「世界記録」を樹立してしまうことになる。

   ここまで大規模な論文ねつ造を、なぜ大学は見抜けなかったのだろうか。特別委員会は調査結果の資料に、「次々と論文を発表すると同僚に疑われるため、『データは前に勤務していた病院またはアルバイト先の病院でとったもの』であるかのように装っていた」「共著者に他施設の医師を入れることにより、実施施設が複数にまたがっているかのように装った」というやり方が長期間、大量の論文ねつ造の発覚を免れるのに有効だったとしている。それにしても、チェック体制が甘いのではないかという疑念は晴れない。

   ある大学関係者に話を聞いたところ、ねつ造は見抜かれていなかったわけではなく、気付いていても見逃されていたのではないかという。ねつ造が明るみになると著者だけでなく、大学の名前も傷付くため、なるべく隠そうとするケースが多いのでは、と見ている。また、世界には学術誌が大量に存在し、簡単に論文を載せられるものもあるという。特に医学は多くの論文を書くことが評価につながるため、そうした海外の学術誌に論文を掲載したということで箔をつけようと思う学者もいるらしい。もちろん論文のねつ造はハイリスクだが、これだけ多くの学術誌があれば見つからないかもしれないという気持ちと、日本は学問の不正に対して甘さがあるため、やってしまう人も少なくないのだろうと嘆いていた。

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