2024年 4月 19日 (金)

ネットの「善意」の盲点 九州豪雨で「タオル大量送付」が起きたワケ

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   「皆様の支援で助かっていることは確かです。ただ、それで『困っている』部分もあるんです」――。2017年7月12日、J-CASTニュースの取材にこう話すのは、九州での豪雨被害を受けてSNSに「タオル支援」を呼び掛けた大分県日田市の女性だ。

   12日昼時点で、女性の元には段ボール約500箱分のタオルが届いている。また、一時は支援に関する問い合わせ電話が1日に100件近くもかかってきた。当人は「対応に追われている」として、「まさか、こんなことになるとは...」と話す。

  • 段ボール約500箱分のタオルが届いたという(画像はイメージ、記事とは関係がありません)
    段ボール約500箱分のタオルが届いたという(画像はイメージ、記事とは関係がありません)
  • 段ボール約500箱分のタオルが届いたという(画像はイメージ、記事とは関係がありません)

「古いタオル、全国から大募集」

   女性は日田市で雑貨店を営んでいる。7月5日から6日にかけて九州北部を襲った記録的な豪雨の影響により、店舗と自宅の両方が床上浸水した。

   浸水の影響で店舗と自宅は泥だらけになり、掃除に必要なタオルが足りなくなった。そこで、5日夜に更新したSNSで、浸水被害の状況を写真付きで紹介するとともに、

「古いタオル、全国から大募集」

などと、住所と電話番号を添えて呼び掛けた。

   この呼びかけには多くのネットユーザーが反応。翌6日までにシェア数は500件を超え、大量のタオルが届くことになった。直接、店舗までタオルを届ける人もおり、6日朝に、

「タオル十分足りてます!」

と投稿。その後6日夕になって、「混乱を招く」ためタオル募集を呼び掛けた投稿を削除したことを報告した。

   だが、その後も大量のタオルが届く。一部のブロガーやツイッターユーザーが、削除済みの「タオル募集」投稿の拡散を進めたことが原因だ。8日の更新で「(タオルは)送らないでください」と発信。続けて、

「タオルは現在募集しておりません。(中略)問い合わせが殺到して、対応が大変な状況です。facebookしかしていませんが、ツイッターで蔓延しているそうです。困っています。ご協力お願いします」

とも呼び掛けた。

問い合わせ電話は1日「100件」近くに

   だが、それでもネットの「拡散」は止まらない。女性が「送らないでください」と訴えた8日以降も、ツイッターには、

「雑巾がたくさん必要だそうです」
「古いタオルわりとあるからおくろうと思う」
「まとめて現地に送ります」

とのコメント付きで、タオル支援を広く呼び掛ける投稿が寄せられていた。中には、タオル募集を中止した事などを伝えるツイートもあるのだが、「拡散」を食い止める力はなかったようだ。

   こうした「拡散」の結果、どれだけのタオルが送られてきたのだろうか。

   12日昼に当人に話を聞くと、「これまでに、段ボール500箱近くですかね」。現在も段ボール単位でタオルが届く状況だという。また、一人だけでは大量の荷物に対応できないため、周辺の住民にタオルの受け取りや仕分けの「ボランティア」も依頼しているそうだ。

   さらに、支援の「問い合わせ電話」にも追われているという。支援ができないかと尋ねてくる電話は「すべて断っている」とした上で、

「一時は、1日100件近くの問い合わせがありました。本当に、朝から晩までひっきりなしに電話がかかってくる状況で...。今は少なくなりましたけど、まだ電話は来ますよ」

としていた。

   こうした状況を説明した上で、支援への対応に追われ「日常生活が大分削られているのは事実」として、「やっぱり、過剰な支援に困っている部分はあります」と話した。

「ネットの良さと怖さの両方を感じた」

   ただ、送られてきたタオルは「決して無駄になっていません」とも訴える。集まったタオルを周辺住民に配布したり、近隣の避難所にまとめて送ったりと、タオルの支援で「地域が助かっていることは確か」だという。

   その一方で、「まさか、こんなことになるとは。ネットの良さと怖さの両方を感じた」とも漏らす。そう感じた理由については、

「問い合わせの電話に対応する中で気づいたんですが、皆さん『私の投稿』を見ているわけではないんですよ。拡散、転載された投稿だけを見て電話をしてくる。だから、もう支援を打ち切っていることにも、全然気付いていないんです。『助けたい』という気持ちばかりが先行していたような人もいました」

と説明する。

   また、支援を募集した投稿を、本人の許可を取らずにブログで拡散したユーザーの一人からはすでに「謝罪」を受けたという。その際、投稿を拡散したユーザーは、

「善意のつもりで、深く考えずにやってしまった。逆に迷惑をかけてしまい、申し訳なく思っている」

と話していたそうだ。

   今回の取材の終わり、「今後は物資を貰うつもりは一切ありません」と一言。その上で、

「皆さんにも、改めて考えて頂けたら嬉しいです。ネットで拡散されている情報だけを見て、被災地に物資を送ることが本当に正しいのか。その善意が、本当に被災者の助けになるのか。私自身も、過去に被災地に支援物資を送ったことがあります。こうした自分の過去の行動も含めて、今回の出来事は、支援のあり方をみんなで考える良い機会になったんじゃないかと、そう思っています」

と話していた。

       

   <7月12日21時追記::編集部判断で、ご本人のお名前と店名を匿名に変更しました。>

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