「倒産は命に関わる」 起業の重みを考えた
自分の会社が倒産するときの、社長の心境はどんな感じなのだろう。絶望のど真ん中に立たされた感じなのだろうか。真っ暗闇の中なのだろうか。テレビの画面をみながら、そんなことを考えていた。
今回の『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、弁護士 松村謙一(敬称略)の話。経営に行き詰った会社の「再生」を専門としている弁護士だ。佐川急便や長崎屋などの大手企業から、無名の中小企業の再生まで、松村の手がける仕事は幅広い。
松村は、企業を再生しようとするときに通常とられる「民事再生」という手法をあまり好まない。この方法によれば、裁判所の力によって銀行や取引先からの借金を減額することができるが、その結果、中小の取引先が倒産してしまうケースもあるからだ。そうならないよう「私的再生」の道を選ぶ。これは銀行に直接再建案をもちかけ、借金の減額交渉を行うこと。できるだけ多くの会社に未来を与える方法なのだ。
企業が企業として存在する限り、そこで働く社員がいる。それら社員の多くが、会社が倒産することによって路頭に迷う。たくさんの家庭・生活を狂わせることになる。責任を取って死を選ぶ経営者も、なかにはいる。そう、企業の倒産には「人の命が関わる」場合があるのだ。命に対して真面目な姿勢で取り組む松村の姿にとても好感を持った。
松村が命にこだわるのにも理由がある。彼は自分の娘を15歳という若さでなくしている。「中小企業の経営者のなかには、自分の命に代えてお詫びしたり、借金を返そうとか考えてしまう人がいる。でもそれは間違っている。会社を救済することによって、心の救済、人生の救済をしようということだね」。人を失う痛みを痛切に実感したからこその感覚なのだろう。
ここ数年間、学生の間では起業ブームだ。私の周りにもとりあえず会社を作ってみたいと考えている人は大勢いるし、実際そうする人も少なくない。しかし、そうして出来た無数の企業のうち、70パーセントが1年以内に倒産・廃業に追いやられるという調査がある。会社を起こすという事がどういうことか、もっとしっかりと考えるべきではないのだろうか。