2024年 4月 19日 (金)

日本中が疑心暗鬼―被災地に広がり始めた「原発避難住民差別」

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   私の友人たちの話から浮かび上がる、政治と被災者たちとの問題意識の乖離について少し書いてみたい。

   友人Aは高齢者を孤独死させないために、独自の「緊急通報システム」を開発して各自治体に供給している中堅企業の社長である。彼のところに、元自民党代議士Bから連絡が入った。福島県で放射能を測定するガイガーカウンターが不足しているので、50台ほど何とかならないかという要請である。

   Aは八方手を尽くし、カウンターはもとより、それを住民に表示できるシステムを幾夜も徹夜して作り上げ、そのことを弁護士のCに話した。Cは世田谷のボンティア団体の責任者も務め、福島原発に近いある市とも縁が深い。今はその市の多くが避難している福島県内の避難所で、ボンティアや看護師たちを連れて行って活動している。話を聞いたCがAに、そんなことは止めるべきだと、こういったのだ。

   政治家は原発周辺の住民たちが何に苦しめられているか何もわかってはいない。いま一番深刻なのは、福島県の中で公然と差別が行われていることなのだ。避難してきた住民に、受け入れ先の市の人間たちが「放射能をまき散らすな」「放射能汚染された子供とは遊んではいけない」とひそひそと、ときには公然といい合っているというのだ。

   Aからその話を聞いて、私も止めたほうがいいのではと言った。Bは市の役所や警察にそのカウンターを配布したいと話したそうだ。福島の県内でカウンターをもった役人や警察官がウロウロする姿は、さらなる風評被害を生むことになろう。原発事故の愚かさに加えて、差別と被差別を増長する愚を重ねてはいけない。

   こうしたことが起きてしまうのも、政府が情報を一元化して公開し、断固とした対応を示さないために、日本中が疑心暗鬼になっているからである。スリーマイル島原発事故の時は、発表する担当者を一人に決め、彼は事故現場のすぐ近くで寝起きをして、日々の状況を報告したそうだ。東電を除いては、枝野も保安院も、原子力委員会の人間も、安全なところに籠もって真偽の定かでない数字などを読み上げるだけである。これでは信用してくれというほうが無理だ。

   今週の「週刊新潮」に、安売り旅行会社H.I.S.が「海外での避難生活」ツアーを売り出したことを取り上げられている。ソウル25日間3万5000円、ハワイ23日間6万円、トルコ30日間5万円(食事はなし)だそうである。ただし対象者は東北6県と茨城県の被災者に限る。H.I.S.はこれをもって被災地を回ってみるがいい。明日の食料や水さえも事欠く被災者に殴られるのがおちである。この国の人々の想像力の劣化を示す話である。

「週刊現代」恐怖路線が売れているけど…

   上智大学の某教授からメールが来た。今週号の「週刊現代」が売り切れて手に入らないので、何とかしてくれないかというのだ。全般に週刊誌の売れ行きはいい。フライデーも震災後に出した号が久しぶりにほぼ完売したと聞いた。

   ちなみに、現代の表紙を拾ってみる。「溶け出した福島原発『第3の恐怖』」「想定される『最悪の事態』」「大特集 放射能汚染列島の虚実 封印された『人体への影響について』」と恐怖のオンパレードである。

   「週刊ポスト」の大見出しは「ただ徒に『不安』と『差別』を煽る人々」。「週刊朝日」は「福島原発のデスロード」とあるものの、題字の上の大見出しは「全国2818高校最終決定版 東大・京大・早慶など全146大学」とある。こうした日本列島全員うつ状態のとき、こうした脳天気なタイトルを見ると、私などは正直ホットするが、売れるのは現代のほうであろう。

   現代は初っぱなから、福島原発の基本設計をした米GE社の元設計士・菊地洋一氏にこう言わせている。

「同じ原子炉なのに、壊れ方がほかとまったく違う。3号機だけ熱でグニャグニャに曲がっているでしょう。アメ状に折れ曲がっている。これは、明らかに水素爆発ではありません。(中略)水素爆発では、ここまでの事態にはならない。何かもっと重大な事態が起き、それがいまだに報告されていないか、誰も正確に事実を把握していないのでしょう」

   この特集は延々続き、こんなコメントもある。米原子力エンジニアでスリーマイル島原発事故の復旧を手がけたアーノルド・ガンダーソン氏は、今回、原発の冷却に成功したとしても、最悪の場合、「福島原発の周囲80km圏内が、居住不可能になるでしょう」。そして地の文でこう続ける。

「半径80kmといえば、福島県の半分が含まれる。もやは行政区としての福島県が今後維持できるのかどうかも、難しい事態になりかねない」

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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