2024年 4月 26日 (金)

バイオ産業

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現状

組織培養の分野への参入が相次ぐ

  バイオ技術は一般に、次の4分野に分類される。
  発酵、組織培養、細胞融合、遺伝子組み換えの4つだ。特に発酵技術は日本の伝統食である味噌や納豆、酒に代表される微生物を利用した食品技術であり、歴史も長く、日本のお家芸といえる。 しかし最近では、こうした従来からの食品や酒類業界の企業に加えて、化学、医薬品、鉄鋼、ガス、タバコなど異業種からの企業のバイオ参入が相次いでいる。大半は、技術的に製品化が比較的容易な組織培養の分野である。

厚生労働省などがある中央合同庁舎第5号館
厚生労働省などがある中央合同庁舎第5号館

  参入の狙いは、組織培養を活用した花、果物、野菜の品種改良から始まって、最終的には日本人の主食である米を中心とした穀物遺伝資源の研究を行って、市場規模の大きいF1種子(ハイブリッド種子)の販売など、ビジネスチャンスを追及することにある。

遺伝子治療で最も有望と見られているのは「がん」

   医療・医薬品でもバイオ技術の実用化が着々と進められている。
  その主要な実用分野が、遺伝子治療、再生医療、抗体医療である。
  遺伝子治療とは、遺伝子の欠陥を修復・修正する「治療の設計図」が書き込まれた遺伝子を患者の体内に導入して治療を実行させるというやり方だ。薬品投与や放射線など従来の治療法に比べて、病気を根本から治療するため、関係者からは大きな期待が寄せられている。
遺伝子治療の商業化で最も有望と目されているのが「がん」治療である。 この分野で、最も先行しているのが、宝ホールディングスの子会社であるタカラバイオ。レトロネクチンを用いた遺伝子治療薬について、イタリアのモルメド社と提携している。モルメド社はすでにヨーロッパで遺伝子治療の商業化に向けた臨床試験を展開中だ。国内では、タカラバイオ自身がまもなく臨床試験を開始する。

血管を新しく作る遺伝子の開発は最終段階

  「閉塞性動脈硬化症」に対して行われる、血管新生の遺伝子治療も実用化が早いと予想される分野だ。血流が悪くなった血管に代わり、あらたな血管を作る治療法だ。「閉鎖性動脈硬化症」とは、糖尿病の合併症の一つで、主に足の先の血管(末梢血管)で血管が細くなり、やがて血液が流れなくなってしまう病気である。
  血管を新しく作る遺伝子はVEGF、FGF、HGFなど多数あるが、世界的に最も積極的に開発が試みられているのが、VEGFである。日本企業ではタカラバイオが韓国で進める臨床開発がまもなく最終段階に入る。
 アンジェス・エムジー(日本の上場会社)が開発するHGF 遺伝子治療薬は現在、臨床試験中である。HGFは日本で発見され、アンジェスは基本特許を多数抑えている。HGFが世界中で承認されることになれば、年商で1000億円を超える大型新薬になる。

高齢者の身体機能回復についても再生医療に期待集まる

  再生医療とは、疾患や事故、先天異常などで失った臓器や組織を、ES細胞(胚性幹細胞)を活用して再生しようという技術だ。再生医療へのニーズは、病気治療だけではなく、高齢者の身体機能の回復についても応用が期待されている。
 この分野での第一人者は、協和発酵である。マウスから中胚葉系の幹細胞を分離・培養する技術を確立し、特許を出願、現在公開されている。マウスはヒトとの関連性が高く、ヒトを対象とした創薬に結びつく可能性が高い。
  皮膚再生でも、実用化が目前に迫っている。米国ではすでに再生皮膚が糖尿病患者の難治性潰瘍治療用に製品化されているが、日本の国内企業では、患者から採取した皮膚を移植する方向で研究を進めている。国内で先頭を走るのが、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC、未上場会社)とビーシーエスというベンチャー企業だ。

次世代バイオ医薬の本命は「抗体医薬」

  皮膚以外では、オリンパスが骨の再生、J-TECが軟骨再生などで実用化をめざしている。日立メディコは歯胚再生、テルモは虚血性心疾患患者向けの心筋細胞再生で実用化を目指している。 次世代のバイオ医薬品として呼び声の高いのが抗体医療だ
遺伝子組み換え技術により生理活性たんぱく質を医薬品化するバイオ医薬品は、80年代の糖尿病治療薬「インスリン」を皮切りに、「ヒト成長ホルモン」「インターフェロン」「エリスロポエチン」などと、画期的な新薬を次々と生み出してきた。そして次世代のバイオ医薬として本命視されているのが「抗体医薬」だ。
  ヒトの身体の免疫システムにおいて中心的な役割を担うたんぱく質が抗体と呼ばれる。その抗体は抗原(ウイルスや細菌、毒素などの異物)の特定部位と結合して、抗原を不活性化させ、無害化する。この抗体を人工的に作り出すことができれば、免疫力を高めたり、特定の細胞を集中攻撃する薬に応用できる。がん、移植免疫、感染症などの新しい薬として期待されている。
 日本国内では、中外製薬キリンビール協和発酵が“抗体御三家"と言われている。協和発酵の場合は、悪性黒色腫を適応対象とした「KW-2871」が米国で臨床試験に入っている。

歴史

先行欧米に遅れたが応用分野で追い上げ

  日本でバイオブームが起きたのは1980年のことである。
  バイオの基礎研究で先行した欧米に比べて、日本のバイオ研究の歴史は浅く、特に基礎技術分野などでは大きく立ち遅れていた。しかし日本が得意とする具体的な商品への実用化など応用分野では猛烈な勢いでキャッチ・アップが進んでいる。
  日本のバイオテクノロジー関連の市場規模は、1980年の約2000億円から、2001年には約1兆4330億円へと高成長を続けている。1999年に当時の通商産業省(現在の経済産業省)がまとめたバイオテクノロジー産業創造のための振興策では、2010年で25兆円と見込んでいる。

ヒトゲノムを新薬開発につなげる努力が始まる

  医薬品製造分野では、遺伝子研究の最先端でヒトゲノム(人の全遺伝情報)の解読が2000年に完了したが、その成果をふまえて、遺伝子機能を新薬開発につなげようとする努力が開始された。農業や化学工業の分野でも基礎研究が進んでいる。近い将来には食糧増産、化学合成プロセスの省エネルギー化が実現する見込みが出てきた。
  ナノテクノロジーとの融合分野であるナノバイオや、微生物や植物を利用した環境汚染物質除去技術(バイオレメディエーション)、たんばく質解析手法コンビナトリアル・バイオエンジニアリング、植物に有用な物資を生産させる分子農業なども、有望な技術として注目されている。
2002年7月には、日本政府のバイオテクノロジー戦略会議が発足した。国際競争力強化を目指した戦略大綱を策定し、政府の研究開発予算を5年間で2倍以上のペースで増額、先端医療品、情報技術との融合分野、計測機器分析機器など研究開発の優先分野を重点的に推進する行動計画を打ち出している。

将来を展望するための3つのポイント

ポイント1
バイオベンチャーが育つ環境を整備できるか

   バイオベンチャーが、これからのバイオ業界の成長を支える牽引車であることはいうまでもない。ところが、バイオベンチャーには高いリスクが付きまとう。新薬や医療技術が厚生労働省から正式に承認されるまでは、研究開発のために莫大な資金が必要だ。黒字に転換するのは、承認されてからだ。しかも、バイオ技術の開発はリスクが高い。途中で開発中止を余儀なくされるケースも多い。その場合は、投下した莫大な資金がムダになる。
  技術力、製品・サービスの事業性に基づいて、5~10年程度先の業績予想をもとに企業の評価を行う。そして、ベンチャー企業の株式が上場される動きが活発となり、投資家から開発資金が円滑に流れ込む、という循環が望ましい。ところが、日本では米国などに比べて上場されているバイオベンチャー企業の数はそれほど多くはない。それだけにベンチャー企業の「企業価値」の評価が難しく、新興ベンチャー企業の上場の障害となっている。最近では、赤字企業でも東証マザーズ大証ヘラクレスなどへ株式が公開できるようになるなどベンチャー育成のインフラも整備されつつあるが、こうした流れをさらに加速する必要がある。

ポイント2
欧米企業との提携、共同開発が進むか

  日本でバイオブームが起きたのは1980年のことである。それでも半世紀近くの研究開発の歴史を持つ欧米に比べれば歴史が浅く、特に基礎技術では日本は欧米に比べ依然、出遅れ感は否めない。日本企業がバイオ分野で大きく飛躍するには、先行する欧米企業との提携や共同開発が欠かせない。その参考事例が中外製薬だ。
 中外製薬は、国内のバイオ医薬品分野でパイオニア的な存在だ。90年代初めに「エリスロポエチン」「顆粒球コロニー刺激因子」を発売したが、現在は抗体医薬品に経営資源を集中している。中でもヒト化抗インターロイキン6受容体モノクローナル抗体「MRA」では承認を申請中、関節リュウマチでは臨床試験の後期段階にある。承認されれば国産抗体医薬の第1号となる。大型新薬としての期待も高まる。
  その中外製薬が、2002年にスイス・ロシュの子会社となった。業界関係者の間では今後の抗体医薬品開発において大きなプラスと評価されている。ロシュの子会社に、抗体医薬品で世界的に先行する米ジェネンテック社があるからだ。多くの相乗効果が期待されている。

ポイント3
遺伝子組み換え技術に、国民の理解どこまで進むか

  バイオテクノロジー、特に遺伝子組み換え技術については、国民の理解が業界発展の大きなカギとなる。遺伝子組み換えは細胞培養など比べて比較的新しい技術である。一般に馴染みが薄い。国民の中には漠然とした不安を抱く向きも少なくない。
  日本でも三井化学やキリンビール、カゴメなどが遺伝子組み換え分野への参入を決めていたが、遺伝子組み換え食品に対する消費者のアレルギーが表面化するとすぐ、同分野からの撤退を決めた。バイオテクノロジーの実用化、産業化を進めていくためには、バイオテクノロジーについての正確な知識を普及させ、国民一般の理解(パブリック・アクセプタンス)を促進することが不可欠となっている。

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