2024年 4月 18日 (木)

長谷川洋三の産業ウォッチ
経営: サンスター会長のM&A戦略

「スイスでM&A(企業の合併・買収)を検討中している。日本よりスイスの方がM&Aはやりやすい」

   歯磨き大手のサンスター会長の金田博夫氏は07年4月3日、東京・有楽町の外国特派員協会で開いた昼食会で今後のグローバル戦略を尋ねた私にこう答えた。日本は規制が多すぎるという先入観を持つ外国人特派員からはすかさずその理由を尋ねる質問が飛んだ。

   金田氏は「過去10年間で本社をスイスに移転させた企業数は米欧企業を中心に600社にのぼるが、日本企業ではサンスターだけだ」と述べ、本社をスイスに移転させたことの意義を強調した。サンスターは2月14日、経営陣による企業買収(MBO)を実施し、株式を非公開化すると発表し、3月15日までに公開買い付けを実施した。買収金額は約240億円で、必要資金は野村キャピタル・インベストメントが融資した。これを受け、7,8月にも上場廃止となる見込み。欧米など海外事業を強化するには、短期的な収益に左右されずに戦略を立てられるようにする必要があるという説明だった。買収防衛のねらいもあるとみられるが、記者会見では「成熟化した国内市場より海外市場に軸足を移し、国際戦略で攻勢をかける」という威勢のいい発言が目立った。サンスターの2006年度連結売り上げは約715億円だったが、将来は3000億円を目指す、といった目標数字も飛び出した。

   「ジョンソン&ジョンソンP&Gなど、国際企業のM&Aも活発になっているが、独占禁止当局の介入もあって、大型買収の際には大きくなりすぎた部門を手放すことを要求されるケースも多く、われわれにとっては売り出された部門を買収するなどビジネスチャンスがむしろ増えている」と会長は指摘した。しかし売り上げ3倍の目標を掲げたものの実現時期は示さないなど、威勢のよいグローバル戦略もやや漠然としたイメージは損なえず、次の戦略実現までには時間がかかるという印象も与えた。

   サンスターは1946年、金田博夫会長の実父である金田邦夫氏が金田金属工業として創業し、自転車部品などを製造していた。その金属チューブ技術を生かして練り歯磨きに進出し、液体歯磨きで約40%、歯ブラシで約20%という高い国内シェアを確保している。しかし国際市場では外資系ブランドとの競合も激しく、金田博夫会長としては、グループ本社をスイスに移転することで世界のサンスターの存在を示すという、第2の創業に賭けるロマンと意気込みを見せた会見だった。


【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「クリーンカー・ウォーズ」(中央公論新社)「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。


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