2024年 5月 8日 (水)

文筆家の松岡美樹氏に聞く ネットでの誹謗中傷問題(下)
気軽に参加の匿名 ネットの発展につながる

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実名を出すと何が起こるかは、mixiが実証

――では、小倉さんのいうようなネット実名制を採り入れると何が問題になりますか。

松岡 ネットを実名化しても、社会問題がまた潜在化するだけです。表面的には確かに炎上は起こらないかもしれません。だが、問題は何も解決していません。平和な「仮面夫婦」みたいな状態になるでしょう。また、せっかく参加してきたネットユーザーの多くが、ネットで情報発信するのをやめてしまう可能性が高いと思います。情報発信のための敷居が一気に高くなってしまうからです。かたや残ったユーザーも当たり障りのない平凡なことしか書けなくなったら、ネットはとても退屈な世界になり、そのクリエイティビティが著しく低下するのではないか、と思います。

――そうしたことを示す何かいい具体例があれば教えて下さい。

松岡 「実名でネット」は、mixiが産声を上げたとき、一時的に一部の人の間でポピュラーになりかけました。ですが、本名登録を推奨していたmixiは、どうなったか?ケンタッキーフライドチキンでアルバイトしていた高校生のゴキブリ揚げ告白などのような数々の騒動を起こした挙句に、抵抗がある人には今やヘルプでニックネーム登録を勧めています。ネット上で実名を出すと何が起こるかは、ある意味、mixiが実証したといえます。ネットの実名化は、そういう時代の流れに逆行しているのです。mixiでは実名による責任ある言論のやり取りが行なわれ、有意義な世界が構築されたかといえば、むしろ逆ではないでしょうか。

――だからといって、本当に匿名が良いということになるのですか。

松岡 そもそもオープンソースの思想や、ウィキペディアなどを通じた集合知を見てもわかる通り、ネットの本質は性善説なのだと思っています。でなければ有意義なCGM(消費者生成メディア)の世界など成立しないし、そもそもユーザー参加型のWeb2.0など有り得ない、ということです。ネットは匿名で発展し、クリエイティビティを保ってきたと言えます。誤解を恐れずに言えば、現実の世界とはまったく別に異なる人格をもって気軽に参加できるからこそネットは素晴らしい。ドロドロとした人間関係を引きずりながら、ストレス過多なコミュニケーションをしなくてすむからいいのですよ。

【松岡美樹氏プロフィール】
1960年、徳島県生まれ。中大文学部卒。新聞社や出版社を経て、文筆家として独立。各種媒体に、ネットメディア利用の心理や、ネット上で起こる炎上などの現象を分析する記事を書いている。著書に、「ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け」(RBB PRESS/オーム社)などがある。ブログ「すちゃらかな日常 松岡美樹」(http://blog.goo.ne.jp/matsuoka_miki)も運営している。

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