2024年 4月 20日 (土)

人件費削るのは安易な方法 経営者はもっとビジョン示せ
(連載「新聞崩壊」第7回/新聞労連・一倉基益副委員長に聞く)

   広告収入の落ち込みで経営悪化が目立つ新聞業界。アメリカではすでに、米トリビューン社の破産申請やニューヨーク・タイムズの記者リストラなどの動きが出ている。働いている記者や社員たちの危機意識はどれくらいあるのか。日本新聞労働組合連合(新聞労連)の一倉基益・副委員長に聞いた。

「新しいビジネスモデル」イコール「ネット」ではない

「難しくて簡単に答えを出せない問題が多い」と話す一倉基益副委員長
「難しくて簡単に答えを出せない問題が多い」と話す一倉基益副委員長

――2008年の年末一時金(ボーナス)交渉の状況はどうですか。

一倉   08年はマイナスです。大幅ダウンを強いられています。07年もほとんどマイナスでしたが、幅はそうでもありませんでした。

――全国紙と地方紙との差、はあるのでしょうか。

一倉   日経さんだけは何とか…という感じですが、一般的には同じような状況です。

――大幅ダウンの理由は、やはり経営が厳しい、悪いということなのでしょうか。

一倉   新聞産業そのものが、我々が使っている言葉ではありませんが、衰退している、と周りの人は言っています。そう言われてしまう状況ということだと思います。

――その理由を聞かせてください。

一倉   部数の伸び悩み、広告の落ち込み、用紙代の高騰、この3つです。

――大変な状況ですね。新聞社の中にいる人たちは、危機感を持っているのでしょうか。

一倉   我々だけでなく、経営陣の方が(危機感を)持っているし、一般組合員も感じています。体力的には内部留保はある企業が多いのですが、ここ数年は人件費の削減が続いています。

    社員たちは、厳しい状況だということを数字上は理解していますが、どうすればいいかの答えを持っている訳ではありません。特に若い世代は漠然とした不安を持っています。一方で40―50代の中には、「自分たちがいる間は大丈夫だろう」という根拠のない安心感をもっている人たちもいます。しかし多少の差こそあれ、みな共通して、今の給与体系を将来維持できないのではないか、という危機感は持っています。

――そうした厳しい状況に対し、組合ではどう対処しようとしているのですか。

一倉   会社側が「危機だ」と言っている理由もそれなりにわかります。しかし、人件費を削るという安易な方法に手をつけるのは、良くないと主張しています。5年から10年先の経営ビジョンを示すべきだ。財務諸表を公開していくべきだ。こんなことも言っています。新聞社は上場していないので公開の義務がない、というところが多いのですが、財務諸表を分析し、本当に会社に体力がないのかを分析し、反論すべきは反論する、という立場ですね。そのために専門家に分析を頼んでいます。

――日本経済全体が厳しい状況を迎えています。そうした中、会社側へ労組から経営改革の提案をする、というのは難しいのではないですか。

一倉   組合本来の仕事ではないのですが、組合内部にそうした要望があったので、新聞社の新たなビジネスモデルを研究する産業政策研究会という組織を新聞労連内に07年に立ち上げました。しかし、まだ経営の現状をまとめた中間報告をした段階で、具体的にはまだ話せません。09年7月にはまとめたいと考えています。とはいえ、我々は経営者ではありません。雇用を守りながら、という中で答えは出しづらいところがあるのも事実です。報告書として完成品を示せるかどうかはまだ分かりません。

――アメリカでは、ロサンゼルス・タイムズ紙などを傘下に持つ米メディア大手トリビューンが破産申請をしたり、ニューヨーク・タイムズが記者をリストラしたり、テレビを含めリストラの嵐が吹き荒れています。日本も同じ状況になるのでは。

一倉   日本でも十分(同じような事態が)考えられると思います。広告の落ち込みは2007年より08年が大きく、09年はさらに落ちるのは分かりきっています。しかし、いたずらに状況に踊らされることなく、一つ一つできることをしていくしかありません。我々も新しいビジネスモデルについて研究をしていますが、本来の組合の仕事は経営ビジョンを示すことではなく雇用を守ることです。

――ただ、紙からインターネットへの移行を模索する動きが以前からありますがうまくいっていないようです。どう受け止めていますか。

一倉   新聞社の「新しいビジネスモデル」イコール「ネット」ではありません。課金システムを考えてもニュース配信だけでは産業として成り立たないでしょう。大手は過去の記事をアーカイブして有料化していますが、限界があるでしょう。ネットには手をつけない、ということも選択肢として検討すべきだと思っています。確かに、中四国、近畿、九州の地方紙12の社が共同で「釣りタイムズ」という有料携帯サイトを立ち上げ、これが課金システムを使って成功している、といった例はあります。しかし、全国一律でこうすれば、というものはなかなか見つかりません。

新聞社の給料水準について善し悪しは議論してない

――今のままいくと、雇用を守るか賃下げを飲むか、という話になるのでしょうか。

一倉   どう受け止めるかはこれからの議論だと思います。雇用といっても正規、非正規問題も存在しています。新聞業界でも約14%は非正規ですから。非正規の人たちを正社員化すべきだ、という運動方針案を掲げていますが、では人件費がふくらむのをどうするのかという議論も必要になってきます。

――そこは労組としては苦しいところではないですか。正規と非正規を一緒にする場合、リストラ・賃下げが条件ということになりかねません。

一倉   何を選択するのか、ですね。(正社員の)賃下げを容認する、という議論に行き着いた場合は、全体で受け止められるかどうかが問われます。しかし、議論はまだしていません。

――頭の片隅に置きながら、という段階?

一倉   そういうことですね。今は、非正規の人たちについて、きちんと法律に基づいた待遇を会社に求めていきます。

――ところで、テレビや新聞社の給料は高いのではないか、という批判が高まっています。

一倉   外部の人が言うのは自由です。テレビを含めて報道という使命の下に働いてきてこの水準が得られたという背景があります。産業構造として維持できなくなったという場合はともかく、周りから言われたから下げる、ということにはならないと思います。

――確かに報道に携わる人の給料は、不正への誘惑に負けないためにも高くあるべきだ、という議論もあります。高い必要があると考えていますか。

一倉   他産業と比べ高いことは認識していますが、その善し悪しは議論してないし、議論する必要があるかどうかも分かりません。

一倉基益さん プロフィール
いちくら もとえき 1962年生まれ。85年に上毛新聞社入社、広告局に配属。2007年10月から日本新聞労働組合連合(新聞労連)副委員長。新聞労連内の産業政策研究会の担当役員でもある。新聞労連は、全国紙やブロック紙、地方・地域紙、専門・業界紙などの労働組合86組合、約2万5500人が加盟している。労働条件の改善・向上への取り組みだけでなく、取材・報道のあり方を検証する新聞研究活動なども行っている。

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