2024年 4月 19日 (金)

ビジネスモデルが崩壊 身を削ぐような合理化が始まる
(連載「新聞崩壊」第10回/ジャーナリスト・河内孝さんに聞く)

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新聞社のビジネスモデルは凋落している百貨店と同じ

――傘下に持っているテレビ局が支えてくれるから大丈夫、という考え方もありますね。テレビ局との関係についてはいかがでしょうか。

河内   確かに2年くらい前までは、「新聞に比べれば、テレビ局は持ちこたえられるだろう」という考え方もあった。ただ、テレビも広告費の落ち込みが激しくて、赤字に転落するキー局も出てきました。新聞とテレビで「老老介護」をしても仕方がありませんよね。テレビ局ではプロパー社員も高齢化しているし、ナショナリズムもあるから今後、新聞が支配してゆくのは難しくなるのではないでしょうか。

   ただ、ある地域の新聞社には100人、系列のテレビ局には50人の記者がいるとして、「ビデオジャーナリスト」といった職業も一般化していることですし、仕事を共通化するという合理化策としては、あり得るのではないでしょうか。

――ネットとの関わりについてはいかがでしょうか。各社とも苦戦しているようですが、収益源にする方法はありますか。

河内   新聞社が大挙してネットに押しかけても、ポータルサイト、ヤフー、グーグルといったプラットフォームに儲けられるだけですよ。ストレートニュースのように、いったん消費者に無料にしたものは、後から「お金くれ」と言っても無理です。そこで、新聞社にしかない情報を発信する有料の専門サイトを作れば良いのではないでしょうか。ロング・テールの考え方です。

   例えば、農水省のクラブには大量の資料が配布されて、10以上の業界紙でも、その内容を全部は紹介し切れていない。ネットならば、業界紙よりも詳しい情報を発信できるはずです。「じゃがいも新聞」「まぐろ新聞」とか。細かい、ニッチな情報を掲載するサイトをつくって有料で読んでもらえるようにすれば、可能性はあるのではないでしょうか。「お金を払ってもらえるコンテンツ」は、存在するはずです。

   新聞社は、凋落しているデパートのビジネスモデル。「すべてがそこにある」ということは「読みたいものが何もない」になりかねない。オール・イン・ワンの新聞の使命は終わったことを認識して、金になるニッチな細かい情報を配信するような形で出直すべきです。

――最後に、各社の取り組みをどう見ていますか。

河内   朝日は半期ベースで100億円の営業赤字(連結)を計上しました。社内の緊張感は大変なもので、「社内の引き締めのためにやったのか」と邪推するほどです。ただ内部留保が2000億円ある朝日だから赤字が出しやすかった、という面はあると思います。

   毎日・産経も、08年9月中間期には、それぞれ26億円、11億円(いずれも単体ベース)の営業赤字を計上しています。

   特に毎日新聞について言えば、08年6月に社長が交代したばかりで、「交代時には思い切ったことがしやすい」ということがあります。これを機会に、ウミを出し切りたい、という思いもあるのではないでしょうか。

   朝日は、今回の赤字計上で、読売、日経との(かつては「ANY」とも呼ばれた)業務連携に弾みがつくのではないでしょうか。具体的には、「原料の共同購入・印刷工程、販売流通の共有化」が進むでしょう。「身を削ぐような合理化」で、3社合わせれば、1000億円台の経費削減ができるはずです。

   朝日は、出版本部を別会社にしたのはえらいですよね。私は、毎日のメディア局を別会社にしようと考えていたのですが、中々上手くいかなかった。別会社になると、競争に放り込まれるので、必死になりますよね。動きが速くなるし、思い切った決断もできます。

   新聞という仕事は「印刷工場を持っていて、販売店を持っていないとダメだ」ということではありません。新聞社の本分は「的確にニュースを取材し、意味づけをして送る」ということに尽きるのであって、別に「(活版印刷を発明したとされる)グーテンベルグと心中しないといけない」とは思いません。

   問題は、上が持っている危機感を、社全体で共有していないこと。若い人は、構造不況業種と思っているから「危機慣れ」している。なかなか「自分の問題として」経営問題を考えようとしませんね。

<メモ:止まらない広告・販売収入の落ち込み>
   日本ABC協会の調査によると、07年4月の段階では811万部あった朝日新聞の部数は08年4月には6万部減少して805万部。毎日新聞は400万部が10万部も落ち込み、390万部になり、ついに「400万部割れ」となった。読売・日経・産経の3社は、ほぼ横ばいだ。
   一方、07年の新聞広告費(電通調べ)は9462億円で、06年に比べて5.2%落ち込んでいる。マス4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費は3兆5699億円で、前年比2.6%減にとどまっており、新聞広告の落ち込みの大きさがうかがえる。
   このような経営環境の悪化を受けて、朝日・毎日・産経の3社が、08年9月中間期(08年4月~9月)の決算で、連結・単体ベースともに営業赤字を計上している。


河内孝さんプロフィール
かわち・たかし ジャーナリスト。1944年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。

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