2024年 4月 19日 (金)

放射性物質の規制値「基準緩和せず」 国民の不安が強いことを考慮

   東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、食品や水に含まれる放射性物質に関する規制値が決まった。専門家が検討した結果だが、国民の漠然とした不安感に押され、「科学的見解」の分が悪く、農家などが期待した基準の緩和とはいかなかった。

   食品衛生法には放射性物質の規制値がない。一方、原子力安全委員会は1998年に、原発などから大量の放射性物質の放出を伴う事故が発生した場合を想定し、目安として放射性ヨウ素、放射性セシウムなどの飲食物摂取制限に関する指標値を出している。

事前には、暫定値の2倍程度に緩和するとの見方も

   厚生労働省は今回の事故を受け、2011年3月17日、急きょ、この原子力安全委の指標値を「暫定値」に採用した。

   放射線に関する単位は、放射線による人体への影響度合いを表す「シーベルト(Sv)」と、放射性物質が放射線を出す能力を表す「ベクレル(Bq)」がある。規制値は、食べ続けても健康に影響はない被曝許容量(シーベルト)を食品ごとに振り分け、1キログラム当たりのベクレルに換算している。

   具体的には、放射性ヨウ素は、年間被曝許容量50ミリSvで、水、牛乳・乳製品が1キログラム当たり(以下同じ)で、300Bq、野菜類(根菜、芋類を除く)が2000Bq、放射性セシウムは、年間被曝許容量5ミリSvで、水、牛乳・乳製品が200Bq、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他が500Bq。放射性セシウムの場合、仮にこの数値の野菜を毎日283グラム(日本人の平均摂取量)食べても、年間被曝量は0.67ミリSvにとどまるという。

   内閣府の食品安全委員会が、科学の立場から暫定値の妥当性を検討した。事前には、暫定値の2倍程度に緩和するとの見方もあったが。結果は現状維持。28、29日、それぞれ放射性ヨウ素と放射性セシウムの許容量は暫定値が妥当との見解をまとめたのだ。これを受けて厚労省は薬事・食品衛生審議会に諮り、同審議会の分科会は4月4日に、食品安全委と同意見をまとめ、同省は正式に規制値の維持を決めた。

   だが、食品安全委の結論は問題だ、との指摘もある。

専門家はセシウム10ミリSvまで緩和でほぼ一致?

   福島と関東の8都県知事が3月28日、政府に暫定値の見直しを求めていたほか、専門家から「諸外国より厳しすぎる」との声が出ていた。実際、食品安全委の議論でも、そうした意見が多かった。関係者によると、ヨウ素については、暫定値を緩めようとする意見もあったが、世界保健機関(WHO)が制限値を年50ミリSvとしていることを重視し、現状維持が決まった。放射性セシウムについては、食品安全委の14人の専門家が、10ミリSvまで緩和しても「不適切とする根拠はない」との意見でほぼ一致したものの、事務局が現状を維持する姿勢を崩さなかったという。

   このため、発表文の表現を巡って2度中断したあげく、最終的に5ミリSvを妥当としながら、緊急時は10ミリSvに引き上げることを認める余地も残すという、すっきりしない結果になった。中には「議論と結論が違う」と戸惑いを隠さない委員もいる。

   この結果に、「数値をわずかに超えただけで出荷停止になっている農産物もあり、緩和を期待していただけに、残念」(農業県担当者)との恨み節が聞こえる。

   一方、政府関係者は、「暫定規制値を緩和しても、原子力安全委員会の指標値と二重基準になる。それまで駄目だったものを、途中から安全と言っても、国民の理解は得られない」と説明する。

   食品の安全問題に詳しいジャーナリストは「今回は、原発事故の行方が見通せない中、国民の不安が強いことを念頭に、役所主導で厳しい基準を追認した。ただ、食品安全委は『科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う』のが使命なのだから、科学的には緩めても問題はないが、国民の不安に配慮して暫定値を維持した、というように説明すべきだった」と指摘している。

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