10月接近の彗星が地球衝突  だれがこんなデマを流したのか

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   「ホワイトハウスが『エレーニン彗星は地球に衝突する危険性がある』とする文書を発表した」――こんな話がインターネット上の一部で出回っている。それは本当なのか。国立天文台や日本スペースガード協会の専門家にきいてみた。

   話題の主はC/2010X1(エレーニン彗星)といい、2011年10月半ばに最も地球に近付く。彗星研究の専門家、国立天文台(東京)の渡部潤一教授は、軌道計算の結果を教えてくれた。この彗星は2010年12月に発見されたばかりだ。

衝突の心配「まったくない」距離

地球の安全と彗星と小惑星の関係とは。
地球の安全と彗星と小惑星の関係とは。

   渡部教授によると、エレーニン彗星が最接近した時でも、地球からの距離はざっと3000万キロ。地球に衝突云々を心配するようなものでは「まったくない」そうだ。同程度に地球に近付く彗星は「毎年、年に数個はある」。ちなみに、地球と月の距離は変動もあるが概ね38万キロだ。太陽までは概ね1億5000万キロ。

   エレーニン彗星は小規模で、夜空でも肉眼でみつけるのはまず無理のようだ。比較的最近、肉眼で観測できたのは、日本人が発見したことで知られる1996年の百武彗星がある。最接近時で地球から約1500万キロだった。エレーニン彗星の場合の半分だ。過去には、ハレー彗星が837年に約500万キロまで接近した。

   地球に衝突する可能性のある彗星や小惑星の監視を国際的に連携しながら行おう、と活動しているNPO法人「スペースガード協会」(東京)にも聞いてみた。1996年に設立され、大学などの研究者やアマチュア観測家らが参加し、専従の観測員もいる。

   高橋典嗣理事長も、エレーニン彗星について「(最接近時でも)地球との衝突が問題になる距離ではまったくない」という。

   彗星ではないが、アポフィスという小惑星が2029年に地球から約3万5000キロに近づくそうで、一時は地球や人工衛星との衝突も懸念されたが、「今では軌道計算ができており、地球にも(人工)衛星にも衝突する心配はありません」。

ホワイトハウス文書は「小惑星の危険」

   専門家が完全に否定した「エレーニン彗星の地球との衝突」だが、では「ホワイトハウスが文書を発表」という話はどこから出たのだろうか。はっきりしないが、どうも以下のような経緯とみられる。エレーニン彗星発見前の10年10月に、ホワイトハウスが米議会に「地球に衝突する可能性のある小惑星の発見に注力する必要がある」などとするレポートを出していて、これが混同されたようだ。彗星とこのレポートに触れた米ブロガーのうがった推測を、日本語で紹介する人がさらに誤解・誤訳した可能性もある。

   高橋理事長によると、小惑星が地球と衝突する危険を回避するために観測を強化すべきだという議論は、数年前から米議会などで高まっている。現在発見されている小惑星は軌道が計算され、少なくとも今後100年後までは地球と衝突するものはないという。

   しかし、直径140、150メートル程度の小型の未発見小惑星が残されている可能性が指摘されている。落ちてきた場合、地球環境を大きく変えるほどではないが、仮に都市を直撃すれば、その都市を崩壊させかねないそうだ。発見された場合、小惑星の軌道を変える方法も研究されている。

   高橋理事長は、衝突うんぬんでなく、エレーニン彗星にぜひ注目してほしいという。軌道計算などから「太陽系がうまれた頃の原始的な宇宙を保った状態」である可能性があり、観測結果が楽しみだそうだ。

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