2024年 4月 19日 (金)

日欧米、「レアアース」で中国を提訴 解決には時間かかる?

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   日本、米国、欧州連合(EU)が2012年3月13日、レアアース(希土類)の輸出を規制している中国を、世界貿易機関(WTO)に提訴した。

   日本が中国をWTOに提訴するのは初めてだが、中国は環境対策や資源保護のための輸出制限だと主張して強く反発しており、解決までには時間がかかりそうだ。

「産業のビタミン」めぐる争い

   レアアースはジスプロシウムやネオジムなど17種類の元素の総称。他の金属と混ぜると磁力や耐熱性が向上することから、ハイブリッド車のモーターやパソコンのハードディスク、スマートフォンなど部品に使われ、「産業のビタミン」とも呼ばれる。

   今回の問題の発端は、2010年7月、中国が輸出枠削減を発表したこと。2007年の6万トンから2011年に約3万トンに半減。2011年半ばの取引価格は1年前の10倍以上に急騰した。その後、日本企業などの使用量削減努力で値下がりしているが、輸出規制前に比べれば依然、高水準だ。

   こうした事態に対し日米欧は、中国が各国への輸出量を制限しているほか、外国企業が支払う額が中国の国内企業の最大2倍になっていることなどがWTOのルール違反だと主張。提訴を主導した米国のカーク通商代表部(USTR)代表は、提訴にあたって声明を発表し、「中国は輸出制限で国際市場の大きなゆがみや有害な混乱をもたらし、アメリカの労働者や製造業者が傷ついている」と厳しく批判した。対中貿易赤字の拡大で、「中国が国際的な貿易ルールを守らずに輸出を拡大している」との不満が米議会などで高まり、11月に大統領選を控えるオバマ大統領も、強硬姿勢を示す必要があるのだ。

   日本政府は鉱山の環境対策技術の提供などを交渉材料に、中国に再三、改善を求めてきた。事態がこう着する中、レアメタル(希少金属)などをめぐり米欧などが提訴した類似の通商紛争が1月、中国側敗訴で決着したことから、米欧とともに提訴に踏み切った。

日本企業は中国に工場

   これに対し、中国は当然ながら強く反発。商務省報道官は「環境保護を目的とした中国の資源管理政策は正当でWTOルールに合致する」として規制を変える考えがないことを強調。「WTOの紛争解決ルールに従い、適切に処理する」と、徹底抗戦を宣言している。

   WTOルールでは、まず当事者問で協議し、60日間で解決しなければ一審に当たる紛争処理小委員会(パネル)を設置する。さらに最終審の上級委員会までもつれ込む可能性があり、レアメタルのケースでも判断確定までに約1年半かかったように、短時間での解決は難しいと見られる。

   中国が国際的な摩擦をいとわずに強硬な姿勢を取る背景には、レアアースを外交カードとして使おうという狙いがあるようだ。昨秋、尖閣諸島付近での中国漁船衝突事件の際には、日本をけん制する一環として輸出規制を使ったと理解されている。また、レアアース自体の輸出を制限する一方で、中国国内で合金に加工すれば数量制限を課さないとし、外資の中国進出・現地生産を促し、「ハイテクの技術移転を図っている」(経済産業省筋)。

   経産省と民間企業は、例えば、ハイブリッド車などのモーターに不可欠で、中国が世界の生産量をほぼ独占するジスプロシウムの使用量を今後1~2年で3割超削減するほか、リサイクル、代替品開発などの取り組みを強化する考えだ。

   実際、すでに中国での生産を始めている昭和電工に続き、信越化学工業も来年1月の稼働予定で福建省に工場を建設することを決めており、レアアース合金で国内シェア計約70%を占める2社がそろって中国現地生産を始める事態になっている。「高度な技術を日本国内に残したいという思いと、レアアース確保のためという間での苦渋の決断」(業界関係者)を迫られている。

日本の姿勢をメディアは評価

   中国の狙いが露骨なだけに、今回の提訴、特に日本の初の中国提訴を評価する声が多いようだ。米経済紙「ウォールストリートジャーナル」(3月23日・日本語電子版)は、「日本は、文化的、外交的、さらには経済的なさまざまな理由から、長い間同国を公然と批判するのに及び腰だった。だが、中国が高圧的に経済力や軍事力を誇示するようになったことから、日本も次第に同国に異議を唱え、改革を後押しするようになってきた」と指摘、「レアアース問題は、そうした日中間の力学のシフトを象徴するもの」と論評した。

   日本の大手紙も「従来、政治的な配慮などから、提訴を控えてきたが、世界第2位の経済大国になった中国に対し、これ以上のルール逸脱を看過しないという日本の姿勢を示す意義は大きい」(読売15日社説)、「日本政府は、米中の政治的なさや当てに巻き込まれず、WTOの手続きを冷静に進めるべきだ」(毎日15日社説)などと評価している。

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