2012年12月に大使を退任した丹羽宇一郎前駐中国大使が2013年1月28日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見し、尖閣諸島を政府が「国有化」したことについて「タイミングが悪かった」と改めて批判した。今後の対応については「お休み」という表現を使いながら、引き続き「棚上げ」を求めた。「暗黙の合意破ったのは局面が変わったということ」講演する丹羽宇一郎前駐中国大使。尖閣をめぐる紛争は「お休み」すべきだと主張した丹羽氏は、国有化の評価について問われ、「後出しじゃんけん的に申し上げるのは好まない」と前置きしながらも、「個人的に申し上げるなら、『タイミングが良くないね』ということが、ひとつ言えると思う」「一歩海をまたげば外交上の係争になるということを、もう少しシリアスに考えて国際的な説明、中国に対する外交上の説明を、やはりしておくべきだったのではないかという気はする」と、国有化の影響を日本政府が過小評価していたとの見方を示した。丹羽氏によると、影響が大きくなった原因は大きく2つ。ひとつが、中国側との信頼関係が壊れたということだ。丹羽氏は中国国内を旅行して各省の党幹部に面会した際の話として、「『この領土問題については、お互いに触れないでおきましょう』というような暗黙の了解があったはずだということは、最後まで中国のトップは言っていた。しかし、それをブレイク(破壊)したというのは、局面が変わったということだと言っていた」と、現状を変えた側が非難されるべきだとの考え方を伝えられたという。ふたつ目が、「胡錦涛主席の面子がつぶされた」という点だ。12年9月9日に野田佳彦首相(当時)と胡錦涛主席はロシアのウラジオストクで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で非公式会談しているが、胡主席は国有化について「断固反対する」と伝えた上で、「中国政府の領土主権問題に対する立場は確固として揺るぎないものであり、日本は事態の重大性を十分認識し、間違った決定をすべきではない。日本側はこの言葉の重みを知るべきだ」と、強い調子で釘を刺していた。ところが、翌9月10日には、野田政権は関係閣僚会議で国有化の方針を正式に決めている。「頭を冷やして、話しあう」「休むというのがよろしいかと」一連の経緯について丹羽氏は、「胡錦涛主席がウラジオストクで野田総理に発言したことが1~2日後に全く無視されたことについて、かなり胡錦涛氏以上に、その部下達が胡錦涛氏の心を慮って激しく反応したのではないか。そこの読みを、日本側としては、やや軽く見たかも知れない」と分析した。また、今後の尖閣諸島問題への対応方針については、「頭を冷やして、話しあう。解決はしないが、顔を合わせて危機管理、海難救助はどうするか、あるいは漁業協定をどうするか、領海・領空侵入なり、一触即発の危機を避けるようなシステム、仕組みというものを両者が話し合うことが大事だと思う」「『棚上げ』という言葉が嫌でございましょうから『お休み』。休むというのがよろしいかと」と、事実上の棚上げを求めた。さらに、「桜の咲く頃」には「けんか疲れ」もあって、日中関係の修復が進むとの見方を披露した。
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