原発の再稼動に加え、新設・増設をめぐる議論がマスコミを賑わせている。安倍晋三首相は2014年1月28日の衆院本会議で「海外からの化石燃料の依存度が高くなっている現実を考えると、そう簡単に『原発はやめる』と言うわけにはいかない」と答弁。電気事業連合会(電事連)の八木誠会長は24日の記者会見で「40年を超えるプラントも含め、安全が確認された既設炉の有効活用、新増設・リプレース(老朽原発の建て替え)などを着実に推進していただきたい」と政府に求めた。
電事連は自民党の国会議員に原発の必要性と新増設を訴える文書を配っていたことも発覚した。
電力会社に「やむにやまれぬ」事情
ここに来て、首相が原発の必要性を訴え、電事連会長が再稼動だけでなく、原発の新増設を求めるのはなぜか? それは国内に建設中の原発が3基あり、電力会社としては「国策にお付き合いして着工した原発は、なんとしても完成させて運転したい」という、やむにやまれぬ事情があるからだ。
原発をめぐっては、再稼動と核廃棄物の最終処分の問題が国会や東京都知事選などでクローズアップされているが、新増設の是非が今後、大きな焦点として浮上するのは間違いない。
マスコミはあまり取り上げないが、国内には現在、建設中の原発が3基ある。ひとつは中国電力島根原発3号機(島根県松江市)で、2005年12月に着工。当初は2011年12月に営業運転開始の予定だった。ところが東京電力の原発事故の影響で計画はストップ。「設備的には完成しており、燃料装荷までに受検する国の使用前検査もすべて終了している」(中国電力)というが、運転開始の目処は立っていない。
もうひとつは、電源開発(Jパワー)の大間原発(青森県大間町)で、2008年5月に着工。東電の原発事故後、建設工事を休止していたが、2012年10月に工事を再開した。電源開発は当初、2014年11月の営業運転開始を目指していたが、「運転開始時期については今後、具体的な工事状況等を踏まえ、検討していく」としている。
残るひとつは、東京電力が原発事故直前の2011年1月に青森県東通村で着工した東通原発1号機だが、東電は「福島第1原発の収束を最優先する」として、2011年4月から予定していた本格工事を見合わせており、再開の可能性は低い。
安倍首相は発言を軌道修正
安倍首相は1月6日の年頭記者会見では原発の新増設について「現在のところ全く想定していない」と述べたが、1月19日のNHKの日曜討論では「建設中の大間原発や、建設がほぼ終わっている島根原発3号機は新増設のうちには入らないと思う」と軌道修正。「運転に向けた申請が出てくれば、原子力規制委員会でしっかりと審査していく」と述べた。民主党政権は「原発の新増設は行わない」と明確に否定したが、自民党政権は建設中の原発を含め、政治判断を先送りしている。
政府関係者によると、現行の法律(原子炉等規制法)では、原発の新増設は電力会社の判断しだいで、原子力規制委員会に申請し、許可を得れば運転できるという。もちろん、島根原発3号機のように、新たな原発を動かすには、原子力規制委員会の許可だけでなく、県知事など地元自治体の同意が必要となる。原発事故後に新たな原発を運転することには賛否両論があり、再稼動以上に安倍政権が慎重になっているのは事実だ。
国会では与野党の超党派の国会議員64人で組織する「原発ゼロの会」が原発の新増設を認めず、運転開始から40年で廃炉とする政府の原則を厳格に適用するよう求めている。これに対して、自民党の原発推進派議員で作る「電力安定供給推進議員連盟」は、原発の新増設やリプレースを政府のエネルギー基本計画に明記するよう求めている。
島根原発3号機や大間原発の運転を政府が認めれば、その後、少なくても国内で40年は原発が稼動することになり、世論の反発も予想される。安倍首相が唱える「省エネと再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、原発依存度は可能な限り低減させる」という基本方針に抵触することにもなりかねない。
電力会社にとっても既存原発の再稼動が最優先課題であり、建設中の原発については世論や政府の動向を見極めているのが現状だ。