2024年 4月 24日 (水)

上村愛子4位に終わったカラクリ 「採点基準変更」に負かされた

   ソチ冬季五輪で日本人選手は健闘しているが、3日目までメダルには手が届いていない。女子モーグルの上村愛子選手は、銅メダル獲得寸前までいきながら最終滑走者の米国人選手の点数が上回ったため、惜しくも4位となった。

   米選手は途中で体勢を崩したが、それでも上村選手より得点が高かった。日本のファンにとって納得いかない結末に見えたが、実は採点基準の変更が大きく影響していたのだ。

上半身がぶれない滑りで米選手が高評価

「採点基準」が大きな壁となって立ちはだかる競技も
「採点基準」が大きな壁となって立ちはだかる競技も

   モーグル競技はターン、エア、タイムの3要素で競う。このうちターンは、雪上のコブをスムーズに滑るテクニックで、採点の割合の50%を占める。エアとタイムが各25%なので、最も重要と言えよう。

   決勝3回目に残った6選手の採点で、上村選手はタイムでトップ、エア3位だったがターンは4位にとどまった。コブに弾かれることなく滑りきったにもかかわらずだ。一方、土壇場で上村選手を抜いたハナ・カーニー選手は第1エアを成功させた後で体が右側に大きく傾いた。その後の滑りもやや安定感を欠いたが、終わってみればターンの評価は上村選手より高かった。なぜなのか。

   2014年2月10日放送の「とくダネ!」(フジテレビ系)に出演した長野五輪女子モーグル金メダリスト、里谷多英さんが謎解きをした。大きく影響したのが、採点基準の変更だという。近年は「(スキーが)スライドしても上半身が安定して動かず、下半身でスキーを巧みに操作するターン」が重要となり、米国やカナダの選手の間で主流となった。タイムは劣っても、上体がぶれにくいので高評価につながる。一方上村選手は、スキーのエッジ部分で雪面をとらえ、彫り込むように滑る「カービング」の技術が優れている。直線的に滑れるのでスピードが増す半面、上半身が揺れているように見えるという。2010年のバンクーバー大会ではカービングが最も重視されたが、その後は上体が安定しているかどうかも評価ポイントに加わったようだ。

   里谷さんがもうひとつ指摘したのが「基準点」の存在。スタートから第1エアまでの間の滑りで審判が選手の基準点を決め、その後ミスがあれば減点していく方式なのだという。銅メダリストとなったカーニー選手の場合、上体がぶれない滑りとして基準点が高く設定されたようだ。そのため第1エアの着地後にバランスを崩して多少減点されたとしても、基準点が低くつけられた可能性の高い上村選手を総合点で上回ったとみられる。

ノルディック複合、ジャンプ、フィギュアでも変更が

   上村選手自身、採点基準の変更は理解していた。それでもあえて自分のスタイルを曲げずにメダルをねらいにいったわけだ。試合後「五輪という舞台でいい滑りができてよかった」と満足気なコメントを残したが、ノーミスだった滑りが4位で、明らかに上体がぐらついた選手が銅メダルというのは、ルールとはいえやるせない。

   過去の冬季五輪をひもとくと、日本人選手は他の競技でもルールや採点基準の変更に泣かされてきた。1992年のアルベールビル、94年のリレハンメル両大会で日本が団体金メダルに輝いたノルディック複合では、ジャンプの得点により距離(クロスカントリー)のタイム換算を9点で1分から10点1分に変えるなど、ジャンプの比重を下げた。「ジャンプでタイムを稼いで、距離で粘る」という当時の日本の戦法に歯止めをかけるような改定だった。

   ジャンプでは98年の長野大会で日本が団体「金」を獲得。するとスキーの長さが規制されたのだ。長野までの「身長プラス80センチ」を改めて「身長の146%」に制限、「小柄な日本人に不利な変更」と言われた。

   フィギュアスケートで採点基準が物議をかもしたのは、2010年のバンクーバー大会だ。高難度の技を決めるより全体的な完成度が得点に反映された。男子は4回転ジャンプを成功させたプルシェンコ選手(ロシア)が銀、回避したライサチェク選手(米)が金メダルを獲得。女子はトリプルアクセルを2度も決めた浅田真央選手が、飛ばなかった金姸児選手(韓国)に点数で大きく引き離された。プルシェンコ選手、浅田選手ともジャンプ以外でミスがあったとはいえ、それをカバーするほど大技が評価されなかったのも事実だ。

   こうしたルール変更は「日本たたき」が目的かどうかは分からない。他国でも影響を受けた選手はいるし、例えばジャンプ競技では、五輪の金メダリストが必ず「高身長」だったわけでもない。ただ、日本人選手が五輪やワールドカップといった世界大会で好成績を残した競技で頻繁に見直されているようで、どうしても疑わしく感じてしまう。

   ソチ大会はまだ序盤戦、ルールや採点の「見えない壁」を弾き返して、日本選手の奮闘に期待したい。

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