2024年 4月 19日 (金)

民法「大改正」120年の歴史で初めて 個人保証は原則禁止、敷金は借り手に返す

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   契約のルールを大幅に改める民法改正の最終案が固まった。

   法制審議会(法相の諮問機関)の民法部会が2014年8月26日、法務省がまとめた案を大筋で了承。来年2月の法制審の答申を経て、法務省は通常国会に民法改正案を提出する方針だ。

消費者と中小企業の保護を強化

   改正は約200項目に及ぶが、ポイントは消費者と中小企業の保護の強化だ。①法定利率を3%に引き下げた上で変動制導入、②欠陥品の対応多様化、③賃貸契約の敷金ルールの明確化、④中小企業融資で求められる個人保証を原則禁止――などを盛り込んだほか、カネの支払いに関する時効を5年に統一することなども打ち出した。ただ、インターネット取引などで使用される「約款」の効力の明確化は一部が反対したため議論を継続するとして、決着を先送りした。

   民法は計5編に分かれ、契約や家族関係に関するルールなどを規定しているが、今回変わるのは前半の主に契約に関する部分で、一般に「債権法」(債権関係規定)と呼ばれる部分。民法は1896年制定。2004年に文語体から口語体に、カタカナから平仮名に改めたが、中身に関する大きな改正は120年近くの歴史で今回が初めて。

   具体的に細かく見てみよう。まず、個人に影響が大きいのが法定利率だ。例えば税金の滞納、民事の損害賠償金の支払いが遅れたような場合の利息だ。ずっと5%に固定されていたが、遅まきながら低金利を反映して3%に引き下げ、さらに3年ごとに見直すとした。

   これは支払い遅延だけでなく、交通事故被害者らの逸失利益算定にも適用される。日本損害保険協会の試算では、例えば生涯の平均賃金が月額約40万円、妻と子供1人を扶養している男性(27歳)が交通事故で死亡した場合、遺族が受け取る損害賠償額は5560万円から7490万円に増えるという。賠償金は被害者が将来得られるはずだった収入の合計額から、法定利率に基づき、働けたはずの期間の収入の利息を差し引いて算出するので、法定利率が下がれば賠償金は増える計算。損保会社は支払う保険金が増えるので、自動車保険などの保険料は上がることになる。

認知症の高齢者が交わした契約は無効

   欠陥のある商品を買った消費者の保護も強める。例えば買った家の基礎工事の手抜きとかシロアリがついていたというように、購入前には気づかなかった欠陥(瑕疵)が後で見つかれば、売り手に救済を求めることはできるが、現行は契約解除か損害賠償しか請求できない。これを、修理や交換、値引きなども請求できるよう多様化し、消費者救済の道を広げようというものだ。

   部屋を借りる際の敷金は明文規定がなかったが、定義や返還の範囲をルール化。しばしばトラブルになる修理費用について、「借り主は経年変化に対する原状回復義務を負わない」と明記し、貸主に契約終了時に敷金を返すよう義務付けた。

   個人に関係するものではこのほか、認知症の高齢者が交わした契約は無効とする項目も新設する。

   中小企業に大きな影響があるのが個人保証の原則禁止だ。経営者本人の保証は例外として認めるが、議論になったのが、経営者以外の第三者保証。連帯保証人が多額の借金を背負って生活破綻に追い込まれることがあるため、法務省は全面禁止を目指したが、最終案では「公証人の前で『保証人になる意思がある』と宣言して公正証書を作成した人」は例外として認めた。

   想定されるのは家族が保証人になるケースなどで、「不動産など担保が十分でない中小企業の信用力を補う。過度に条件を厳しくすれば、その分、金利など融資条件が厳しくなりかねない」との中小企業側の懸念に配慮した形だ。ただ、第三者保証に伴う被害の救済にあたる弁護士などからは「抜け道」との批判も出ている。

「約款」の規定新設は継続審査

   工事代金などの「債権」を第三者に譲渡しないとする「債権譲渡禁止特約」についても、特約があっても債権を売れるようにする。担保資産などに乏しい中小企業は、この債権を、融資を受ける際の担保に使ったり、代金の支払い前に換金して他の事業にあてることができるようになり、「資金調達の選択肢が広がる」(中小企業団体関係者)。

   また、お金の支払いの時効は、飲食代は1年、弁護士費用は2年、病院の診療費は3年など職種別に定められている1~3年の「短期消滅時効」を廃止し、「権利行使できると知った時から5年」に統一する。

   一方、今回の改正の目玉の一つとされていた「約款」の規定新設は継続審査になった。保険やクレジットカードなどでお馴染みの約款は、事業者が画一的な条件で多くのサービス利用者と契約を結ぶ際に使われるが、内容は多岐にわたり、複雑なため、よく読まない人は多く、後でトラブルに発展するケースもある。法務省の最終案は、買い手が著しく不利になるなど不当な項目を無効にしたり、売り手が契約後に無断で約款を変更するのを禁じることなどを盛り込んでいたが、法制審部会で経団連推薦委員が反対したため、ひとまず仕切り直しになった。

   年末までに整理し、何らかの形で規定が新設される見込みで、やさしい言葉使いや条文短縮など消費者に分かりやすくすることを含め、企業側は対策を求められることになりそうだ。

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