2024年 4月 26日 (金)

アベノミクスのゆくえ(3)
小田切尚登氏インタビュー(上)
日本の経済成長状況は悪くない 国債暴落の可能性は極めて低い 

   2015年10月に予定されていた消費税率10%への再引き上げが、17年春まで「延期」された。アベノミクスでよくなるはずの国内景気がさえないためだ。

   そもそも、デフレ脱却を果たして、「景気回復」と「財政再建」を両立していくのがアベノミクスだったはず。消費増税の延期は景気回復にはプラスに働くが、財政再建は遠のく。膨らむ国債の残高は時限爆弾のようだ。

   経済評論家・国際金融アナリストで、明治大学大学院兼任講師の小田切尚登氏に、アベノミクスと「財政再建」の行方について聞いた。

消費増税見送りは誤り、インフレで「先々つらくなるだけ」

国債暴落の可能性は「極めて低い」
国債暴落の可能性は「極めて低い」

―― 安倍政権の経済政策「アベノミクス」がはじまって2年が過ぎました。現時点で、アベノミクスをどのようにみていますか。

小田切: アベノミクスはデフレ脱却のための政策です。安倍政権の発足以降、日銀による異次元の金融緩和で円安が進行し、それに伴い株価は上昇しましたが、景気は上向いていません。
実質賃金が上がらず、物価だけが上昇したからです。円安が行きすぎ、必要以上に物価が上昇しました。それによって再び買い控えが起こる。これはコストの上昇から生じた物価上昇であり、典型的な「悪いインフレ」であると考えています。

―― 結局、景気低迷を理由に、消費税率の10%への再引き上げを、17年春まで延期しました。

小田切: 政府は2014年7~9月期のGDPから判断したのですが、再引き上げの幅がわずか2%、計10%であることを考えると、(延期の判断は)理解できません。4月の増税後に景気回復の足どりが鈍ったことはわかりますが、実施は15年10月です。これは結果論といわれるかもしれませんが、いまの原油安はまさに「神風」。一たん急上昇した原油は約50%も下落し、円安による値上がり分をも埋めています。
また米国の景気回復基調が鮮明になったことで、日本経済がそれに引っ張られて上向いていくことは明らかです。
むしろ「絶対にやる」と断言している17年春のほうが、あまりに先すぎて国内景気の予測がつきません。

―― 消費税率の再引き上げは延期すべきではなかったと。

小田切: 消費増税はよく、3%から5%に引き上げられた1997年と比べられます。当時、景気後退ムードがあったのは金融危機の影響が大きい。基本的に、増税は物価が安いときほどコンセンサスが得られやすいといえます。物価が上昇しているときに、税率が上がったら、さらに家計の負担が増えますから。
一方、アベノミクスは意図的に物価を上昇させようという政策です。そう考えると、いまやらない(増税しない)でいつやるの? ということです。(延期することで)選挙向けに、景気浮揚ムードをつくり出したかったとしか思えません。
借金は、根本的には税金で返していくほかにありません。いま引き上げなければ、あとがつらくなるだけです。
それから税率を下げたほうが税収が増える、といった俗説がありますが、それは税率が極端に高いといった特殊な場合にいえるだけで、一般的にはそんなことはありません。

―― 政府は「消費増税は2017年春に間違いなく実行する」としています。このとき、景気は回復しているのでしょうか。

小田切: わかりませんし、(景気が回復している)保障などありません。

国債暴落の可能性、「東京に大震災が起こるのと同じくらい」

―― もっとも、消費増税の延期を理由に、米格付け会社が日本国債の格付けを引き下げましたが、市場は反応しませんでした。

小田切: たしかに格下げがマーケットに影響したかというと、ほとんど影響はありませんでした。ただ、日本は1200兆円もの借金を背負っています。その返済原資が細るのですから、「リスクがないわけがない」ということは認識しておく必要があります。

―― なぜ、マーケットは反応しなかったのでしょう。

小田切: 世界的にみた場合、日本の経済成長はいいとはいえませんが、すごく悪いわけではありません。むしろ日本国債は他の多くの投資対象と比べると、安定的な投資先と評価されているのです。

―― そうすると、国債暴落やハイパーインフレの可能性はないと考えていいのでしょうか。

小田切: 繰り返しになりますが、日本の経済成長は悪くはありません。少なくとも比較的安定的に推移しているところは、米国を除く大半の国よりも優れています。
もちろん、莫大な借金があるわけですから、なんの策も講じなくていいわけではありません。すでに1~2%の金利上昇は想定しているようですが、問題は10%とか、20%とかに上昇することはあるのか、それが起こる可能性はどのくらいなのか、ということです。
これは現実的なリスクとしてなかなかイメージできるようなものではありません。たとえば、東京に大震災が発生するといった例と同じだと思っています。
つまり、国債暴落やハイパーインフレの可能性は「ある」が、その可能性を前もって予測できるようなものではないと考えています。

―― デンマークやスイスをはじめ、EU(欧州連合)ではマイナス金利を導入する国が増えています。日本での可能性はありますか。

小田切: 日本がマイナス金利を導入する可能性はあります。マイナス金利は、金融緩和の一環ですから、民間の銀行が日銀にお金を預けておくくらいなら、企業に貸し出そうという流れに促していく政策です。
たとえば、国債の買い取りを抑えるためにマイナス金利を導入するという判断はあるかもしれません。
一方でたとえば下手に貸出リスクを取るくらいなら日銀に多少の金利を払っても置いておこうというような銀行の判断もあります。
またグローバルでは、スイスフランのような強い通貨でマイナス金利になることがあります。ともあれこれは一定の効果が見込まれる政策ではありますが、うまく導入しないと「劇薬」になる恐れもあります。
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