2024年 4月 25日 (木)

個人消費に関わる経済指標、明と暗が錯綜 いったいどれを信じるべきか、判断に迷う

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   個人消費に関わる経済指標で、明暗が錯綜している。2015年4月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所=厚生労働省6月2日発表)で、物価変動の影響を除いた実質賃金が前年同月比0.1%増と2013年4月以来、2年ぶりにプラスに転じた一方、4月の家計調査(総務省5月29日発表)の全世帯(単身世帯除く2人以上の世帯)の実質消費支出は1世帯当たり前年同月比1.3%マイナスで13か月連続減――といった具合だ。

   1年前の2014年4月の消費税率引き上げによる物価上昇の影響が統計上はほぼ消え、今年の春闘での賃上げも消費にプラスだが、最近は物価を押し上げる円安のマイナス効果も意識されており、今後の消費の動向には、注意が必要だ。

  • 個人消費を回復軌道に乗せるチャンスか
    個人消費を回復軌道に乗せるチャンスか
  • 個人消費を回復軌道に乗せるチャンスか

速報は高めに出る傾向

   実質賃金は、額面上の給与である「名目賃金」から、物価変動の影響を除いた数字。物価の上昇が名目賃金の伸びを上回ると、実質賃金は減る。過去2年間はアベノミクスの大規模金融緩和で円安が進み、消費増税もあったため、物価の上昇率が名目賃金の伸びを上回り、実質賃金はマイナスが続いていた。

   しかし、4月は、大企業を中心にベースアップ(ベア)が実施されたことを反映して名目賃金(1人当たりの現金給与総額)が前年同月比0.9%増の27万4577円と2か月ぶりに増加。一方、消費税増税後の2014年4月との比較となるこの4月は、増税による物価押し上げの影響が消え、原油安などもあって物価の上昇が0.8%にとどまり、名目賃金の伸びを下回ったことから、実質賃金が上昇に転じたのだ。ただ、この統計は、速報が高めに出て、翌月の確報で下方修正されることが多いというクセがあり、7月の発表で水面下に再び沈む可能性もあるなど、手放しでは評価できない。

   家計調査の方は、消費税率引き上げ直後となった前年4月の消費が大きく落ち込んだことを考えると、今回のマイナスは予想外との受け止めが多い。事前の予測は回答した16調査機関全てがプラスを予想、その中央値は実質前年比3.1%増だった。これについて、消費税率引き上げに伴う経過措置があった設備修繕・維持などの「住居」が全体を押し下げたという特殊要因があり、住居や自動車購入など振れの大きい大型消費を除くと、日常生活的には13か月ぶりにプラスになるとの指摘がある。他方、短期的な動きをみる前月比(季節調整済み)では5.5%減と、3か月ぶりにマイナスに転落しており、これも評価は難しいところ。

   2015年1~3月期の国内総生産(GDP)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.6%増(年率換算で2.4%増)と、2四半期連続のプラス成長になり、GDPの約6割を占める個人消費は前期比0.4%増と3四半期連続増を記録した。ただ、6月8日の改定値で設備投資は増額修正されたが、個人消費は0.4%増で据え置き。個人消費の金額を見ても約308兆円で、消費税率アップに向けた駆け込み需要が本格化する前の2013年10~12月期の約315兆円にも届いていない。実質賃金が増えても消費支出が低迷していることも併せて考えると、消費税率引き上げの影響一巡後の消費の足取りは、まだ鈍いといえそうだ。

秋以降がどうなるか

   政府は、賃金アップなどで消費が回復し、企業の生産が増え、雇用や賃金がさらに増えるという「経済の好循環」を期待している。実際、今春闘の賃上げが実際の給料に反映されるのは6月ごろからとされ、夏のボーナスも昨年を上回る見通しなのに加え、原油価格下落の影響で消費者物価も当面は低水準で推移すると見られ、夏場にかけて所得環境は好転が見込める状況だ。

   ただ、高齢化が進む中で、賃上げに比べて年金支給額は抑制されるため、高齢者の消費動向は慎重となりがちで、消費は構造的に伸びにくくなっているとの指摘もある。

   さらに、ここにきて1ドル=125円台を付けた円安の消費への影響も、景気の先行きを読みにくくしている。円安は輸出企業を中心に収益拡大要因になるから、今後の一段の賃上げにつながる期待があり、円安に伴う株価上昇が続けば、資産効果で株式保有者の消費を押し上げる期待もある。

   一方、円安によって輸入に頼るエネルギーや食料品などの価格が上昇しているものもあり、家計が節約に向かう可能性もある。実際、消費者心理を示す消費者態度指数(内閣府調べ)は4月、5か月ぶりに前月より悪化した。食品など身近なモノの値上げが影響したとみられている。

   異次元緩和で空前の円安を演出してきた日銀の黒田東彦総裁も、ここにきて「さらに円安に振れていくことはありそうにない」(6月10日の衆院財政金融委員会)と語って短時間で2円近く円高になる「ミニ黒田ショック」を引きおこしたが、市場では、「日銀がこれ以上の円安のマイナス面を意識している」(証券関係者)との見方が出ている。

   原油安や所得環境の好転といったプラス材料と、円安に伴う値上げというマイナス材料が交錯する中、「プラス面が優勢な夏までが個人消費を回復軌道に乗せるチャンス」(経済官庁関係者)との声が出る。しかし、そうならなかった場合、秋以降は円安に加え、原油価格の回復などマイナス面が目立ってくるとの見方が強い。アベノミクスは正念場にさしかかっているようだ。

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