この調味料、パッと見は普通のしょうゆにしか見えない。ところがその原料は、なんとイナゴなどの「昆虫」だという。和歌山県内の団体が地域振興の一環として、そんな「昆虫発酵調味料」を発売したところ、全国から注文が相次ぐなど評判を呼んでいる。虫を食べる文化は各地にあるが、調味料にするというのは日本ではほとんど例がない。基本的にはしょうゆに近いけど...「どこか虫っぽい」開発を手掛けたのは、和歌山の地域活性化支援団体「いなか伝承社」だ。原料には、ツチイナゴやトノサマバッタ、ジャンボミールワームなど、5種類の昆虫が使用されている。中でも主力商品の「イナゴソース」は、イナゴに麹(しょうゆ麹・米麹の2タイプ)などをくわえて発酵・熟成させて作ったもので、その製造方法は、伝統的なしょうゆの醸造法とほとんど同じ。ただ一点、大豆が「昆虫」に変わっただけである。気になるそのお味は? いなか伝承社の運営者で、開発者の田中寛人さんによると......。「しょうゆ麹」:基本的にはしょうゆに近い味なのだが、独特のクセがある。そのクセや風味が、どこか虫っぽい。「米麹」:何にも例えようのない、全く未知の味。美味しいことは確かなのだが、経験豊かな料理人でないと使いこなすのは難しいかも。特に卵かけご飯とは相性抜群で、また田中さんによればアイスクリームにかけても合うそうだ。試作品を食べた「和の鉄人」として知られる料理人・道場六三郎さんも絶賛したという。意外な発想のきっかけは?そもそも、田中さんがイナゴソースの開発を思い立ったのは2013年のこと。「しょうゆ発祥の地である和歌山県湯浅町に残る伝統的な醸造技術を活かして、何か全く新しい商品をつくれないか。そういった思いから、このプロジェクトをはじめました」最初から、昆虫を使おうと思っていたわけではないという。ただ、田舎に残る地域資源の「見える化」をコンセプトとするいなか伝承社では、以前からタニシやアユなど野生生物を食べるイベントを実施していた。そのため、プロジェクト開始直後から「野にあるものを使う」という方向性は固まっていたと田中さんは語る。だが、当初目を付けたドングリは数が集められず、次いで淡水魚で魚醤(ぎょしょう)を作ろうとするも、こちらも失敗。試行錯誤のうえ見つかったのが「イナゴ」だったという。湯浅町で100年以上の歴史を誇るしょうゆ醸造元に企画を持ち込み、翌2014年に試作品が完成した。成虫はコクが、イモムシはサッパリ感がさらに商品化にあたって独立行政法人「農業生物資源研究所」と連携し、ミールワームやカイコの幼虫、トノサマバッタといった別の昆虫をつかった醸造にもチャレンジし、味の違いを追求した。その結果、イナゴやトノサマバッタといった「成虫系」は高タンパクでコクが強く、ミールワームやカイコといった「イモムシ系」は低タンパクでサッパリとした味わいになったそうだ。次は栄養価に優れた「カイコのマユ」の醸造に挑戦したいと田中さんは語る。2015年10月31日の発売以来、テレビや新聞などのメディアに幾度も取り上げられたこともあり、売れ行きは絶好調だそう。日本各地の「変なモノ好き」をはじめ、飲食店や食品会社の開発部からも注文が寄せられているという。価格は「イナゴソース」2種のセットが5400円(税込)、その他の昆虫も含めた「10種セット」が16000円(同)。いずれも、いなか伝承社のホームページから購入できる。
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