2016年7月中旬以来、報道各社が天皇陛下について使い続けていた「生前退位」という表現が変化しつつある。産経新聞は「生前退位」をやめて「譲位」に切り替えることを表明し、朝日新聞の記事からは「生前退位」が消えて「退位」になった。この「生前退位」という用語は、天皇陛下の退位の意向をスクープしたNHKが大々的に使い、各社が「後追い」してきたという経緯がある。皇后さまが「生前退位」の活字を見た時の「衝撃は大きなもの」だったと表明したのに加えて、退位のあり方について検討する政府の有識者会議の議論が本格化しつつある。そういった中で、報道各社は「生前退位」の表現を見直すタイミングを検討していた可能性もある。皇后さま「衝撃」「一瞬驚きと共に痛み」一連の発端は7月13日夕方放送のNHK「ニュース7」。トップ項目で「独自 天皇陛下『生前退位』の意向示される」と報じ、翌7月14日には日経が「天皇陛下退位の意向」とした以外は、各紙が1面に「生前退位」の用語を掲げた。その後も各社は日経を含めて「生前退位」の用語を使い続けた。そこに一石を投じたのが、皇后さまが10月20日の誕生日に際して発表した談話だった。「新聞の一面に『生前退位』という大きな活字を見た時の衝撃は大きなものでした。それまで私は、歴史の書物の中でもこうした表現に接したことが一度もなかったので、一瞬驚きと共に痛みを覚えたのかもしれません。私の感じ過ぎであったかもしれません」この文面は、皇后さまが「生前退位」という言葉に違和感を持っているとも受け止められた。それから1週間ほどが経った10月28日、産経新聞は1面に時田昌・校閲部長の名前で「『生前退位』ではなく『譲位』とします」と題した記事を掲載。今後は「譲位」の用語に統一する方針を明らかにした。記事では、「生前退位」の用語の意義を「すぐに陛下が天皇の地位を譲られるわけではないのが一目で分かる」「現在は皇位継承が『天皇が崩じたとき』のみに限られていることを浮き彫りにした面もあります」などと説明する一方で、皇后さまの談話を念頭に「『生前の姿』などと『死後』や『死』とセットで用いられることが多いのも確かです」とも指摘。天皇陛下も「譲位」の言葉を用いていると伝えられていることを踏まえながら、「有識者会議での議論も本格的に始まり、『生前退位』という用語を使わなくても、十分にその意味するところが分かる環境になったといえます」とした。NHKなど今も「生前退位」各社の用語をめぐる判断は、早速「有識者会議での議論」を伝える記事で反映された。27日に有識者会議「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の2回目の会合が開かれ、16人の専門家へのヒアリングが決まったことを28日の紙面で報じたからだ。当然、産経は「櫻井氏ら専門家か16人選出譲位有識者会議ヒアリング対象」と「生前退位」が消えて「譲位」になった。朝日は、「『退位』意見聴取16人決定 有識者会議来月、集中し3回」と、「退位」と表現。本文も「天皇陛下の退位をめぐり~」と始まっており、「生前退位」の表現は消えている。それ以外の大手紙は「生前退位有識者ヒアリング石原元副長官ら16人」(毎日)「『生前退位』有識者会議16人ヒアリングへ」(読売)「生前退位来月3回ヒアリング慎重さ交え16人から」(日経)と「生前退位」の用語を残したままで、初報を出したNHKも28日早朝5時のニュースでは「生前退位など有識者会議聴取ふまえ慎重に検討へ」と、同様の対応だった。
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