2024年 4月 16日 (火)

21兆円を国民につけ回し 東電原発処理費用の急膨張

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   大事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所の廃炉や被災者への賠償の費用が、やはり膨らんだ。2013年時点では総額11兆円と見込んでいたのが、21.5兆円と大幅に上方修正されたのだ。

   当初から過少見積もりとささやかれていたが、わずか3年で2倍というのはあまりにお粗末だ。結局は電気料金に上乗せされて国民負担につけ回しされるのは確実だが、まともな議論なく話が進むのは、国民不在というしかない。

  • 経済産業省は東電福島第一原発の廃炉と賠償費用を上方修正した
    経済産業省は東電福島第一原発の廃炉と賠償費用を上方修正した
  • 経済産業省は東電福島第一原発の廃炉と賠償費用を上方修正した

世耕経産相「増加することもあり得る」

   費用21.5兆円は、経済産業省が12月9日に発表した。最大項目は福島第1原発の廃炉費用で、旧来の2兆円から8兆円へと4倍になった。だが、同事故では汚染された地下水の発生が止まらず、溶け落ちた核燃料が原子炉を突き破っているのが確実で、取り出し方も未定とあって、8兆円さえ腰だめで弾いた数字と言わざるを得ない。

   このほか、避難者らへの損害賠償が5.4兆円から2.5兆円増え7.9兆円、除染が2.5兆円から1.5兆円増え4兆円、汚染土などを保管する中間貯蔵施設が1.1兆円から0.5兆円増えて1.6兆円に、それぞれ膨らんだ。当初見通しが甘かったのはもちろん、除染の遅れで避難指示解除が遅れ、避難が長期化したことなども要因という。

   世耕弘成経産相は12月20日の会見で、21.5兆円について「当面さらに上振れすることはないと考えているが、状況変化や予見できなかった要因で、増加することもあり得る」と、早くも将来の増加の可能性を否定しない。

新旧電力会社を通して利用者が負担

   将来のさらなる金額膨張の可能性はさておき、現段階の21.5兆円を、誰が、どのように負担するのか。これには、東電の経営が密接にかかわるので、経産省は有識者会議「東京電力改革・1F(福島第1原発)問題委員会(東電委員会)」を設けて検討し、12月20日に提言をまとめ、これも取り込んで政府は同日、「福島復興加速のための基本指針」を閣議決定した。

   現行の原則では、廃炉費用などは基本的に東電が負担し、国が資金繰りを支援。賠償費用については東電以外の大手電力会社も負担(国が立て替えた分を返済)するとなっていて、除染費用は国が保有する東電株を高値で売った売却益で賄うとしていた。

   これを基本としつつ、今回の基本指針では、新たな手法を導入した。まず、賠償費は、2020年度から約40年、電力会社に計2.4兆円を負担させるとした。送電線の利用料(託送料)に上乗せする形で、原発を持つ大手だけでなく、電力自由化で参入した新電力会社にも負担させるというのがポイントだ。1キロワット時あたり0.07円、月260キロワット時使う一般的な家庭の電気料金が月に18円増えると試算される。東電など大手が賠償費用を負担し始めたのは2011年の事故後からだが、本来、事故に備えてもっと前から資金を積み立てておくべきだったもので、過去の不足分を今から回収するには、かつては大手の契約者だった新電力のユーザーにも払ってもらうのが公平――という理屈で、新電力は反発しているが、経産省が押し切った。要は、利用者負担ということだ。

   廃炉費用は、約30年かけて東電1社が払うという枠組みは変わらないが、金額が4倍に膨らんだのを賄うため、送配電部門の特例を設ける。本来なら送配電部門で利益がたくさん出たときは送電線の利用料を下げなければならないが、東電に限って値下げせず廃炉に回せるとした。その分、電気代が高止まりすることになり、実態は利用者負担だ。

   除染費用は、汚染者(東電)負担の原則で進めているが、政府が、人が住めるように優先的に整備を進める帰還困難区域の「特定復興拠点」の除染については、復興増税などを原資とする復興予算を除染に充てる方針に転換した。2017年度には300億円盛り込んでおり、5年間で数千億円規模になる見通しだ。「避難された方の強い思いを受け止めての決定」(山本公一環境相)と説明する。

   また、除染の東電負担分は、政府保有東電株の値上がり期待だが、現在1兆円に満たない東電の株式時価総額を約7兆5000億円にまで高める必要があり、容易ではない。

シナリオ通りにいくのか

   しかし、こうした政府のシナリオの通りに東電が負担をできるのか。東電委員会は、提言で東電の経営改革にも踏み込んでいる。まず、年間収益を現在の4000億円水準から5000億円に高めるとするが、この前提となる停止中の柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働は「反原発」に支持された知事の誕生で展望は開けず、送配電子会社の効率化なども簡単ではない。また、収益力アップのため、他の大手電力との間で原発や送配電の「共同事業体」を設立し、東電株価を上げる見通しも示すが、業界ではこうした再編案は「巨大な東電に飲み込まれる」「福島の事故費用の負担をさせられる」などの懸念が強く、簡単にまとまる話ではない。

   今回の試算変更、負担方式の改定などは、原発維持を大前提に、経産省主導で決められた。しかし、託送料の上乗せ(新電力も負担)などは、事実上の増税ともいえるもの。「脱原発」を社論とする朝日新聞や毎日新聞だけでなく、原発必要の立場の日経新聞でさえ「制度が始まる前に確保しておくべきだった過去の分は、これから集めるという。この理屈にどれだけの国民が納得できるだろう。......丁寧な説明が求められる」と釘を刺すほど。託送料は税金と違って国会の審議もなしに経産省の認可で変更できるとあって、国会のチェック機能も問われるといえそうだ。

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