2024年 4月 19日 (金)

【震災6年 ふるさとの今(4・完)宮城県気仙沼市】
「苦境」逆手、活路はシンガポールに 水産加工、団結の力で交渉力

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   カツオの水揚げ量で20年連続日本一の宮城県気仙沼市は、サメやメカジキ漁でも知られる魚の街だ。東日本大震災で大打撃を受けた漁業関連施設は、6年の歳月を経て再建が進んだ。

   一方で、近年は日本人の「魚食離れ」が指摘されている。苦戦が予想される未来に備えて、地元の水産加工会社が団結した。視線の先にあるのは、海外だ。

  • シンガポールで開かれたPRイベントで、気仙沼の水産加工品を使った料理を披露
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  • 気仙沼ほていの工場では、フカヒレのレトルトパウチのスープを製造
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  • あかふさ食品のサケ、サバの瓶詰め商品は人気だ
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  • 震災から6年、気仙沼・鹿折地区の水産加工業集積地に、新しい建物が立ち並ぶ
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  • シンガポールで開かれたPRイベントで、気仙沼の水産加工品を使った料理を披露
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「個人プレーヤー」が組合結成

   気仙沼市の鹿折(ししおり)地区は、魚市場から2.5キロの距離にある。2011年3月11日、未曽有の津波と大火災に襲われ壊滅的な被害を受けた。震災後、復興工事が行われる中で港に近い一部区域は水産加工業集積地として整備され、今日では新築の工場が並んでいる。

   その中に、気仙沼鹿折加工協同組合がある。「個人プレーヤー」の色合いが強かった水産加工業者が震災を機にまとまり、大手商社や農林中央金庫が支援して2012年8月に設立された。目的は、生き残りのための「コストダウン」と「販売戦略」だ。コスト面では、農林中金からの低利融資約20億円を活用して共同利用の大型冷蔵庫と海水処理施設を設置した。おかげで個々の会社は、独自にこうした高額の設備を購入せずに済む。販売戦略面では、小規模業者の場合、単独だと商品の売り込みが困難だった百貨店のような大手に対して、組合としてまとまったことで交渉のテーブルに着いてもらえるようになった。

   ところが、厳しい現実が立ちはだかる。実は震災前から、日本国内の魚介類の消費が右肩下がりで減っているのだ。

   厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」2015年版に掲載されている、1人1日当たりの食品摂取量の平均値を見ると、1975年は魚介類が94.0グラム、肉類が64.2グラムだった。以降魚介類は減り続ける半面、肉類は増える一方だ。2006年は魚介類80.2グラム、肉類80.4グラムと逆転、直近の2015年は魚介類69.0グラム、肉類91.0グラムまで差が開いた。過去40年間で、魚食離れは一向に止まらない。

中国、韓国は今も被災地の輸入停止

   販路の課題もある。震災直後は事業が停止した影響で、製品が供給できなくなった。顧客側は別の地域や業者から商品を確保するようになり、結果的に国内販路の一部を失ったのだ。

   国内での販売は、将来苦戦が予想される。そこで組合では、日本とは逆に魚介類の消費量拡大が見込まれる海外に注目した。組合所属の各社が製造する水産加工品を売り込み、外国へ販路を広げていこうというのだ。

   ただアジアでは、中国や韓国といった隣国がいまも被災地からの水産物の輸入を停止している。そこで、ターゲットをシンガポールに定めた。1人当たりGDP(国内総生産)が世界でも上位で、組合の水産加工品を購入できる顧客層があるのも、選定の理由となった。対象は日本食レストランではなく、あくまで現地のバイヤーや飲食店だ。

   海外との取引経験が乏しい企業が多いため、組合をバックアップする三井物産が、現地と太いパイプを持つ輸出業の日本企業に販路開拓を要請した。資金面は農林中金がサポートする。農林中金仙台支店長の榎本浩巳氏は、この取り組みについて「被災地のみならず、国内消費減という課題を抱える全国の農林水産業における先駆的なモデルケースとなり得る」とコメントした。

   海外相手となれば、組合の「規模の力」が生きる。例えば海外市場を視察したり、現地で商品の見本市に参加したりする場合、中小企業だと費用面で厳しい。組合なら今回のように金融機関や商社の支援を受けやすく、水産加工会社としては組合経由で現地事情の情報を得られる。

   2017年2月、シンガポールのバイヤーを気仙沼に招待した。先方の希望を組合で吸い上げて最適な商品を提案する中、早くも具体的な商談に入るケースも見られた。バイヤーたちが鹿折にある水産加工工場を視察した際は、衛生管理状態を高く評価。実は現地ではいまも、気仙沼に原発事故の影響があるのではとの懸念が完全には消えていないようだが、雑菌の入り込む余地もない清潔な環境に「問題ない」と安心していた。

   3月には、気仙沼の代表団がシンガポールに渡りPRイベントを開いた。シンガポールの消費者は、日本人と味の好みが違う。まず食べてもらうのが大切だ。現地のレストラン関係者やバイヤー、政府関係者、メディアを招いて水産加工品を使った料理をふるまった。参加者からは好評で、その場で発注が来たほどだ。別の日には現地の人気ブロガーを招き、若者への情報発信を期待する。

「気仙沼の味」が海を越えて広がるか

   鹿折の水産加工企業にとって海外は未知の領域で、チャレンジだ。

   参加企業のひとつ、「気仙沼ほてい」は、フカヒレを中心とした缶詰やレトルトパウチ製品が主力だ。過去に海外進出の積極的なプランはなかったが、販路が国内だけに限られるといつか行き詰まるとの危機感はあったと、販売部長の熊谷敏氏は話す。組合から今回の話を聞いたとき、「長い目で見たら、(海外進出は)必然」と判断した。

   だが、2月にシンガポールのバイヤーが来て話した際、「初耳」の事実が多かった。現地では一般に3食とも外食で、家庭で調理しない。また外食産業向けの魚介の食材では、冷凍冷蔵の物流が発達していて、バイヤーからは「加工食品よりも、できれば(生の)原料に近いものが欲しい」と言われたという。熊谷氏にとっては「ショックだった」が、半面「現地の実情を把握できたのは大きい」とも考える。気仙沼ほていでは生鮮部門の工場を運営しており、ここから活路が開けるかもしれないとみている。

   サケのほぐし身を事業の柱とする「あかふさ食品」は、丁寧な手作業でつくる瓶詰の「ゴロほぐし塩鮭」「ゴロほぐし焼鯖」が消費者に人気だ。魚の生臭さがなく、塩加減も強すぎないので、そのまま食べてもよいし、料理の中に入れてもほかの食材の味を邪魔しない。海外では受け入れられやすそうだ。

   だが、被災した工場の再稼働を始めたのは2016年10月とごく最近。しかも人手不足で、海外市場に目を向ける余裕がない。社長の赤坂知政氏は、「現在抱える国内の顧客が第一だ。ただ、海外に興味はある。現状では可能な範囲で考えていきたい」と話している。

   組合所属の各社は、2017年10月には、シンガポールで開催される日本食の見本市「フードジャパン」出展を予定している。現地での足掛かりを築き、2018年度以降は組合が主体となって自力で海外への輸出拡大に取り組む予定だ。

   気仙沼の「ふるさとの味」が、海を越えて広がる日を目指す。(おわり)

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