2024年 4月 18日 (木)

猪瀬直樹氏インタビュー(前編)
豊洲移転問題の本質 五輪費用は誰が負担するのか

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   東京都議会議員選挙が2017年6月23日に告示(7月2日投開票)されるのを前に、作家(日本文明研究所所長、大阪府・大阪市特別顧問)で元都知事の猪瀬直樹氏(70)がJ-CASTニュースのインタビューに応じた。

   前編では、小池百合子都知事(64)の就任後、混迷している築地市場の豊洲市場移転問題と、2020年東京五輪の費用負担問題について、自らも都知事としてかかわった経験を踏まえ考えを聞いた。

  • インタビューに応じる猪瀬直樹氏
    インタビューに応じる猪瀬直樹氏
  • 市場問題について語る猪瀬氏
    市場問題について語る猪瀬氏
  • インタビューに応じる猪瀬直樹氏
  • 市場問題について語る猪瀬氏

「築地再整備案」と「豊洲移転案」のどちらになるのか

――豊洲市場への移転の可否判断がなかなか下されません。

猪瀬直樹氏 豊洲移転はいずれ決まるでしょう。小池百合子知事は「決められない知事」などと言われていますが、物語的な構成で考えれば「水戸黄門の印籠」はじりじりと待って最後の最後に登場するんですよ。いったん立ち止まって、「築地再整備案」と「豊洲移転案」という両方の案が出てきたので、「築地は駄目だった。やはり豊洲だ」というプロセスをたどることになると思います。

   小池知事が豊洲移転を延期したのは、2014年からの全9回の地下水モニタリング調査が17年1月に終わる予定なのに、なぜ、その前の16年11月に豊洲が開場することになっていたのかと疑問に思ったから、ストップをかけたのです。

――地下の汚染水の問題はどう解決していくのでしょうか。

猪瀬氏 技術会議(豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議)の「地下水管理システム」は、地下水を排水処理した上で排水することになっています。地上には行きません。だから専門家会議(豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議)の平田健正座長は「地上は安全」と言っています。

   それと、石原慎太郎さんが悪く言われていますが、そもそも石原さんが環境学者らを集めた専門家会議をつくって徹底的にやってくれと言って始まったのです。その後で技術会議が始まりました。当初、専門家会議では地下水の汚染について環境基準値を持ち出していません。でも、後の技術会議でいつの間にか環境基準値という指標が入ってきました。環境の専門家が「問題ない」と言っていたのに、です。それに、そもそも環境基準値は70年間1日2リットルの水を飲む場合を想定した数値です。

――そうした意思決定のプロセスが知られないままに、石原氏を含めて批判が出ているということですか。

猪瀬氏 そうです。都庁には局が20くらいあります。中央卸売市場も局の1つです。都営地下鉄を手がける交通局もあれば水道局もあります。これだけ細分化されていたら、どこで何をやっていたかはある程度は司司(つかさつかさ)で対応していくでしょう。会社だってそうです。たとえばテレビ局で、番組の細かい内容について社長が何か聞かれても分からないでしょう。市場問題はそういう組織論を抜きにして騒ぎになっています。

   私が都知事の時も13年1月に「豊洲移転1年延期」を決定しました。それは中央卸売市場長から、豊洲で東京ガスの杭が見つかり、その周りの土壌から基準値を超える数値が出たという報告がきちっと上がってきたからです。一番の汚染源を突き止めたという感じでした。それを取り払うための1年延期でした。ですから、こういう重要な決定をする際には知事まで報告があがってきますが、細かいことまで全部決めていたら知事は務まりません。

東京五輪は招致後の「アジェンダ2020」で方針が変わった

――2020年の東京五輪・パラリンピックですが、費用の膨張とそれを誰が負担するかをめぐって混迷しています。

猪瀬氏 まず言いたいのは、五輪招致の時に作成したのは「企画書」であって変わり得るものだということです。当時、IOC(国際オリンピック委員会)のジャック・ロゲ会長は「コンパクト五輪」を方針としており、12年ロンドン五輪もコンパクトな大会でした。すると、20年大会の招致レースも、東京、イスタンブール、マドリードでコンパクト競争を繰り広げます。

   東京以外の自治体で開催する競技はその当時、サッカーの予選だけでした。13年3月にIOC評価委員会が東京へ視察に来て評価点をつけてもらいましたが、その時にサッカーの会場となる各自治体には都が財政保証をするという確認をしました。サッカースタジアムはすでにありますから、それほどお金がかかりません。

   今、神奈川県の黒岩祐治知事らが五輪経費の負担をめぐって小池知事に怒っているでしょう。あれはどういうことかと言うと、13年9月の招致決定後、IOC会長はトーマス・バッハ氏に代わり、14年12月には五輪に関するIOCの中長期的改革計画「アジェンダ2020」が採択されました。ロゲ前会長の方針を必ずしも守らなくていいと、あまりコンパクトにしなくても、少し競技会場の地域を広げていい、ということになりました。

   そこで、たとえばセーリング競技は神奈川の江の島で、というようにサッカー以外も一部会場を広げることになりました。しかし、ここで「東京都が財政保証する約束だったじゃないか」と言われても、それは13年3月当時の前提です。アジェンダ2020で方針が変わったのですから、その後に出た費用は本来、国(政府)が乗り出してお金を払わないといけない。他県にまたがる問題ですから。

――東京五輪とはいえ、政府が果たす役割がもっとあるということですか。

猪瀬氏 ロンドン五輪も政府が相当に負担していたように、東京五輪と言っても実際には「日本五輪」です。16年のリオデジャネイロ五輪では、閉会式に安倍晋三首相が自ら出向いてスーパーマリオのパフォーマンスをやったでしょう。それなら、東京五輪で国も費用を出してくれという話になります。元々約束していたサッカーの分は東京都が出しますが、神奈川県や千葉県などの追加分は国が出すと言わないといけません。。

   五輪は都市で開催しますが、地方自治体の力だけではできません。名古屋も大阪も五輪招致で惨敗しています。私が都知事として東京五輪招致をした際は、国に働きかけて各省庁の協力を全部取り付けました。バラバラの縦割り行政では負けるので情報の中枢を作り、勝つ仕組みをつくりました。開催地決定投票を行うIOC委員には途上国の方もいるので、外務省にODA(政府開発援助)はどの国にどういうことをやったのかなど、情報を集約しました。そうして「チームニッポン」で五輪を勝ち取ったのです。

――メイン会場となる新国立競技場の費用負担も混乱が続きました。

猪瀬氏 神宮の新国立競技場をめぐっては、組織委員会(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)会長の森喜朗氏が「新国立には東京都が500億円出す」と言っていましたが、そんな約束はしていません。この話は何かと言うと、16年大会の五輪招致の時に、都立のメイン会場を1000億円で晴海に建てる計画があり、晴海の都立は都と国で半分ずつ負担するという話になりました。それを森氏が神宮の新国立にも置き換えているのかもしれません。都立と国立だから全然話が違います。それでも舛添要一知事の時代に都が395億円出すことで合意されました。こんなデタラメがまかり通ってしまっています。

(後編に続く)


猪瀬直樹氏 プロフィール

いのせ・なおき 1946年長野県生まれ。作家。87年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。96年『日本国の研究』(文春文庫)で第58回文藝春秋読者賞受賞。
   2002年、小泉純一郎首相(当時)により道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命。06年には東京工業大学特任教授就任。07年に石原慎太郎・東京都知事(当時)のもと東京都副知事に任命。12年12月に東京都知事に就任し、13年12月に辞任。
   現在、財団法人日本文明研究所所長、大阪府・大阪市特別顧問を務める。
   著書は『昭和16年夏の敗戦』『天皇の影法師』(いずれも中公文庫)、『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』(いずれも文春文庫)など多数。近著に『民警』(扶桑社)、『東京の敵』(角川新書)。

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