長崎の余波が北陸へも影響? 新幹線めぐる「カネと技術」のハードル

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   通称「長崎新幹線」、九州新幹線長崎ルート(博多―長崎駅間)が迷走している。

   JR九州は、2022年度の開業を目指す長崎新幹線について、これまで検討してきた「フリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の導入を見送る方針を固めた。FGTは途中で左右の車輪の幅を変更することで「線路の幅が在来線(1067ミリ)と新幹線(1435ミリ)で違っても両方を走ることができる」が売り文句。「ゆくゆくは長崎駅から新大阪駅まで座ったまま移動できる」との姿も描いてきた。しかし、従来の新幹線車両に比べて初期投資やメンテナンスの費用が2.5~3倍程度かかることがネックなうえ、安全面を担保できるレベルまでの完成度もないというのが断念の理由だ。FGTは北陸新幹線の敦賀駅(福井県)以西、新大阪駅までの延伸ルートでも導入が検討されており、長崎新幹線のFGT断念は「北陸」の動向に影響する可能性もある。

  • FGTはどうなるのだろうか
    FGTはどうなるのだろうか

「フリーゲージトレイン」を導入する構想だったが

   これまでは2022年度の開業時に、長崎県境に近い佐賀県西部の武雄温泉駅までは博多駅から在来線特急を活用し、武雄温泉駅で新幹線に乗り換えて長崎駅に向かう「リレー方式」をメインにしつつ、一部にFGTを導入する構想だった。武雄温泉駅のリレーの乗り換えをスムーズにするため、同じホームで乗り換えられるように改良する。そのうえで2025年度にはFGTによる全面開業とすることを目指してきた。

   FGTは博多駅から佐賀県東部の新鳥栖駅まで(26キロ)現行の九州新幹線の線路、新鳥栖―武雄温泉駅間(51キロ)で在来線の線路、武雄温泉―長崎駅間(66キロ)で今度は新たな長崎新幹線の線路――をそれぞれ走る。在来線を活用せずに全区間を新幹線のフル規格線路で建設するより、用地買収などがいらないためコストが安いことがメリットのはずだった。秋田、山形のミニ新幹線の場合は在来線のレール幅を広げることで対応したが、そうした作業、コストも不要だ。現在の博多―長崎の所要時間は特急で最短1時間48分。FGTの長崎新幹線はこれを28分短縮し、座ったままで最速1時間20分で結ぶ。リレー方式は乗り換え時間をどう確保するかという問題はあるが、仮に3分とする乗り換え時間を含めて最短1時間26分と現状より22分短縮される。

   FGTについては、国の事業として1997年から開発を進め(現在は独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が担当)、これまでに400億円超が投じられている。九州では長崎新幹線のFGTによるJR西日本の山陽新幹線区間の利用も望まれているが、JR西は否定的。FGTの最高速度が時速270キロにとどまるのに対し、山陽新幹線は最高時速300キロと走行性能が異なるためだ。

当面は「リレー方式」、フル規格を再検討か

   FGTは2014年にようやく実用化へ向けた耐久走行試験を開始したものの、車軸に摩耗が見つかって中断。2016年末から2017年3月まで、改良した車軸を使って再び走行試験を実施したが、高速走行時の安定性などを含め、なお安全を保障できるまでには至っていない。1964年の東海道新幹線開業以来、「運行に起因する死亡事故ゼロ」という新幹線の安全神話を長崎で崩すことは万が一にも許されないとの思いもJR九州にはあるようだ。

   JR九州は2016年10月、九州、四国、北海道の「JR3島会社」の先陣を切って株式を上場した。上場した以上、好調な不動産などと違って採算の苦しい鉄道事業には投資家の厳しい目が注がれる。従来型新幹線よりコストが高いうえ、安全面にも課題があるFGTの採用には動きにくい。JR九州の青柳社長は5月の記者会見で、「従来の新幹線より費用がかかるのに効果的な対策が出ていない」と語り、FGTに二の足を踏む意向をにじませていた。

   FGTの導入を見送ることで、長崎新幹線はどうなるか。2022年度の開業予定は変えないようなので、当面は「リレー方式」での運行を続ける以外にない。そのうえで全線をフル規格にするかどうかを再検討、ということになりそうだ。全線フル規格なら新大阪まで直通も可能だ。ただ、実現には地元の追加負担が避けられない。長崎県より博多に近い佐賀県にとって長崎新幹線開通の恩恵は小さく温度差があるだけにハードルは高そうだ。

   一方、北陸新幹線の敦賀駅以西への延伸にも逆風だ。FGTが運行できれば、在来線の活用により、フル規格にするよりコストは格段に下がる。ただし北陸の場合、冬場の雪対策という難問も加わるだけに長崎よりハードルがさらに上がる難点がある。FGTに一縷の希望をつないでいる「四国」「山陰」の新幹線構想にもダメージを与えそうだ。

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