岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
NYの「例外」スタテン島に行ってみた(完)

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   「Donald Trump-loving Staten Island is New York's Idaho(ドナルド・トランプを愛するスタテン島は、ニューヨークのアイダホ)」――。

   ニューヨークの地元紙の見出しでも、このように謳われるスタテン島。民主党支持者が圧倒的に多いニューヨーク市で、この島は例外的にトランプ支持者の割合が高い。スタテン島は、マンハッタン最南端からフェリーで南西に25分。香川県の小豆島とほぼ同じ広さで、マンハッタンの人口の3割弱にあたる48万人が住んでいる。

  • サムの家の前に掲げられた最初の「T」のオブジェ
    サムの家の前に掲げられた最初の「T」のオブジェ

焼かれた「T」のオブジェ

   トランプ支持者はとくに島の南岸に多く、8割近い住民がトランプ氏に投票した地区も少なくない。私がこの辺りを訪ねた時、最初はトランプ大統領の話になると口を閉ざした支持者の男性が、誇らし気に語り始めた事件がある。

   男性の妻が、「普通だったら大統領選の前には、支持者の看板が家の前に立てられるのに、この辺りでもトランプ支持の看板はあまり見かけなかったわ」と話した時だった。

   2016年5月、スタテン島在住の眼鏡技師、サム・ピロゾロ(53)は、自分の家の表庭に「T」の文字を型取ったオブジェを設置した。トランプ支持を表明するためだ。

   高さ3.7m、幅2.4mと巨大で、全面に星条旗の模様が施されている。夜間はライトアップされ、かなり目立った。

   同年8月7日午前1時頃、娘がサムを起こしにきた。「玄関のベルが鳴ってるよ」。

   ドアを開けると、「T」がオレンジ色の炎に包まれていた。近所の人がベルを鳴らし、知らせてくれたのだ。

   オブジェを作ったのは、この島に住む保守派のアーティストだ。サムは、このオブジェ以前の作品にも、展示の場として表庭を提供してきた。

   ちょうど10年前に、同じ家が火事でほぼ全焼したことがあったため、恐怖とショックは大きかったという。

   昨年の事件を振り返り、サムは私に語った。

「あの頃、TRUMPの文字入りのTシャツを着ているだけで、殴られたり叩かれたりする事件が盛んに報道されていた。攻撃される恐怖を感じることなく支持を表明できるように、『Trump』の名前を出さないオブジェを思いついたんだ。『T』はトランプの頭文字だが、tolerance(寛容)の「T」でもある。それなのに、こんな事件が起きるなんて、皮肉だろう?」

2400ドルの罰金に寄せられた「寄付」

   翌日、思いもかけないことが起きた。報道で事件を知った選挙活動中のトランプ氏が、サムに自ら電話してきたのだ。トランプ氏は、サムと制作者の熱意に礼を述べ、家族の無事を確認して喜んだ。

   サムはその時の様子を、興奮気味に私に語った。

「『そばにいる家族に聞かせたいから、スピーカーフォンにしていいですか』とトランプ氏に聞くと、『もちろんだよ』と言って、妻や子供たちにも話しかけてくれたんだ。とても礼儀正しい人だったよ」

   その時、一緒にいた「T」の制作者が、「今度はもっと大きな『T』を建てます」と電話で約束すると、トランプ氏は笑いながら、「That's really great.(それは本当に素晴らしいね)」と答えた。

   翌日、以前より大きい、高さ4.9m、幅3.7mの「T」が同じ場所によみがえった。

   サムの住む町は、スタテン島の北西部にある。トランプ氏に投票した住民は、全体の6割強と、南岸ほど多くはない。それでも新たに「T」が設置された時には、150人ほどのトランプ支持者が駆けつけ、皆で「God Bless America」を歌ったという。

   その後、市の建築局から「T」の「照明と大きさ」について違反通告を受け、2,400ドルの罰金を支払うように命じられた。

   サムは、「火を付けたのも建築局に通報したのも、トランプを嫌悪するリベラル派に違いない」と憤慨する。

   ネットなどを通じて呼びかけた寄付金で、罰金を支払うことができた。

   「T」再建のためにと、自分の手に100ドルを握らせてくれた男性がいた。家の玄関のベルを鳴らし、「次の作品の足しにして」と12ドルの入った封筒を差し出した女性もいる。

   庭に取り付けるようにと、監視カメラを寄付した人、「トランプ氏を支持はしないけれど、あなたの表現の自由を支持します」と言ってくれた人もいた。

   スタテン島の人たちの声を、これまで4回に渡ってルポしてきた。ほんの一部を歩いただけだが、全体的にのどかな島だという第一印象に変わりはない。

   トランプ支持について語りたがらない人は珍しくなかったが、心を開いて長時間、思いのたけを話してくれた人も多かった。メディアや他の地域のニューヨーカーの圧倒的な反トランプの風潮に、うんざりしている様子が伺えた。

   反トランプは少数派だが、「Make America Great Again.(アメリカを再び偉大に)」とトランプ氏のスローガンを掲げた旗に交じって、「Trump Not My President(トランプ 私の大統領ではない)」と書かれた旗を堂々と揚げるなど、息苦しさは感じられなかった。

   「自分の主張を表現する権利」が生きている。

   そんなことを思いながら、マンハッタンへ向かうフェリーから自由の女神像を眺めていた。

(随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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