首都圏で地下鉄の落書きが多発 かつてのNYのように治安悪化の兆候?

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   東京メトロの地下鉄の車両に落書きが見つかったとの報告が相次いでいる。2018年1月13日以降、日比谷線や千代田線、東西線で、スプレー塗料のようなものを使って車体の側面にかなり大きな落書きが描かれた。

   米ニューヨークでは、1970~80年代にかけて落書きだらけの地下鉄が「危険な街」の象徴のような扱いを受けた。日本でも、今回のような落書きが重大犯罪の一歩になるのではと心配する声が出ている。

  • 東京メトロで落書き被害が続発(写真と本文は関係ありません)
    東京メトロで落書き被害が続発(写真と本文は関係ありません)

80年代にニューヨークの地下鉄で落書き撲滅キャンペーン

   落書き被害にあった地下鉄3路線の車両は、金網越しの容易には立ち入れない線路上に止められていた。

   1月18日放送の「報道ステーション」(テレビ朝日系)では、コメンテーターでジャーナリストの後藤謙次氏が「治安の悪さを象徴するのが落書きと言われる」と指摘。ニューヨークの地下鉄の落書きを例に持ち出して、「(19)90年代に(落書きの)撲滅運動が一斉に行われ、それ以降ニューヨークの治安は急速に回復したと言われている」と話し、今回の件を「単なる自己顕示欲の発露と軽く見ない方がいい」と警鐘を鳴らした。

   軽犯罪を見逃し続けると、凶悪犯罪につながっていく――。これは「割れ窓理論」として知られ、80年代に米国の犯罪学者ジョージ・ケリング氏とジェームズ・Q・ウィルソン氏が広めた。建物の窓が壊されたのに直さず放置したままだと、「誰も関心を払っていないのか」と思われてそのうちすべての窓が破壊される事態につながるとの理論だ。逆に落書きなど小さな犯罪をきちんと取り締まることで、重大犯罪が防止できるという。

   この理論に基づきニューヨークでは1984年から5年計画で、当時落書きだらけだった地下鉄車両の「落書き撲滅キャンペーン」を開始。90年代に入ると、市中心部の駅、さらには市内の各地域で軽犯罪の一掃に当局が動いた。

   ケリング氏自身による米誌「シティジャーナル」2009年特別号の寄稿によると、90年代初頭までにこうした施策は成功を収めていた。特に顕著だったのが、地下鉄だったとしている。さらに94年、ニューヨーク市長に就任したルドルフ・ジュリアーニ氏と、ニューヨーク市警のトップに任命されたウィリアム・ブラットン氏のコンビが、割れ窓理論に基づく取り組みで街の治安の改善をもたらしたという。

犯罪が減ったのは警官が増えたから?

   米公共ラジオ局「NPR」電子版の2016年11月1日付記事によると、ジュリアーニ市政の地下鉄の環境改善運動として、無賃乗車、マリファナ使用、違法タバコの販売、そして車両への落書きの徹底取り締まりが行われた。90年代でも、地下鉄に落書きをする犯罪者はまだ残っていたのだ。

   その結果「犯罪は減り、殺人率は急減とまるで奇跡だった」と記事には書かれ、割れ窓理論を評価していた。

   一方で、ニューヨークの犯罪の減少は、必ずしも割れ窓理論に基づいた運動による成果とは言えないとの批判もある。

   米シカゴ大教授のスティーブン・レヴィット教授らが2006年に著した「ヤバい経済学」(東洋経済新報社刊)によると、ニューヨーク市で犯罪が減り始めたのは90年で、ジュリアーニ氏が市長となる前。しかも93年の終わりまでに、「窃盗や殺人を含む暴力犯罪は、もう20%近く減っていた」という。さらにニューヨークだけでなく全米で、90年代を通じて犯罪減だったとも指摘した。

   ではなぜ凶悪犯罪が減ったのか。同書が触れたのは、90年代に米国における人口1人あたりの警官数が14%増えた点だ。任意に取り出したある街で、犯罪率が増えていないのに警官を増やした場所とそうでないところを比べると、警官が増えた街では犯罪発生率が大きく下がるという。

   とはいえ、日本ではこれまでにめったに起きていない地下鉄の落書きという犯罪行為を放置しておいてよいわけではないし、「イヤな兆候」と考えられなくもない。割れ窓理論で語られたように、無関心がいずれ大きな災いを招く可能性がある以上、早期の対処が望まれる。

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