2018年 5月 22日 (火)

量子コンピューターの覇権に動く中国 米国との「もうひとつの戦争」

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   米中貿易戦争が勢いを増している2018年、両国間では密かにもう一つの「戦争」の火ぶたが切られている。それは、量子コンピューターの「独自開発」をめぐる競争だ。

   2014年から、中国は量子計算の分野での特許、応用件数で米国を上回っている。2017年までに、中国の関連特許はすでに553件に達し、米国は307件に過ぎない。これがすでに米国メディアの警戒心を刺激している。

  • 北京にある中国科学院計算技術研究所。量子コンピューター開発ための人材も養成している。
    北京にある中国科学院計算技術研究所。量子コンピューター開発ための人材も養成している。

暗号技術で重要な役割

   従来のコンピューターは二進法を採用して計算するシステムで、それぞれ1あるいは0は1個のビットを代表しており、それがデータ貯蔵の最小単位となっている。量子コンピューターは「量子ビット」を採用して単位としており、従来と比較すると、少ないエネルギーで、より多くの情報を内蔵することができる。

   新華社通信は「もし量子コンピューターが50個前後の量子ビットを有効に操作できれば、能力は従来のコンピューターを上回り、従来のコンピューターに匹敵する『覇権』を実現できる。この種の『量子覇権』はまさに各科学研究機関の競争目標となっている」などと解説する。

   米誌『ワイアード(Wired)』によると、量子コンピューターは従来のコンピューターとは原理が異なり、例えば、数量が膨大な素数を探し当てるなど、特定の数学問題の解決に非常に適している。素数は「暗号」の分野で非常に重要であり、量子コンピューターによるセキュリティー・システムの迅速な解読で、「量子ハッカー」が誕生した半面、量子技術を基にした暗号化システムによって、暗号の安全性をさらに強化することができる。

   量子計算のビジネス化の面では、市場規模の伸び率は驚異的である。中国の市場研究公司の「Research and Markets」によると、2016年、量子コンピューターの市場規模は約8840万ドルに過ぎなかったが、米国の市場分析機関「通信業研究院」は、量子コンピューターの市場規模は2023年に19億ドルに達し、2027年には80億ドルに上る可能性がある、と分析している。

「国家チーム」とアリババが共同

   これまでのところ、量子計算の領域における中国のパフォーマンスには目をみはるばかりである。

   中国政府が量子計算の分野に投入している金額について、『澎湃新聞』は、安徽省合肥市に現在建設中の量子情報国家実験室の総投資額だけで約70億元(約1190億円)に上る、と報じている。

   世界初の光量子コンピューターは2017年5月3日、中国で誕生した。研究チームは超伝導量子ビットの操作をレベルアップさせ、超伝導量子中央演算処理装置(CPU)で迅速な量子計算を実現した。

   注目に値するのは、この光量子コンピューターは、中国科学技術大学、中国科学院、アリババ(阿里巴巴)量子実験室、浙江大学、中国科学院物理研究所等が協同して研究開発に参加していることである。

   民間企業では、アリババのほかに、テンセント(騰訊控股)、バイドゥ(百度)の2大IT大手も先を争って滑走路に出ようとしている。

   テンセントは一企業規模の量子実験室を立ち上げ、量子通信など一部の技術をテンセント・クラウドの一部業務や製品にドッキングする試みをしている。

   バイドゥも「5年以内に世界一流の量子計算研究所を創設する」と宣言している。

   このほか、量子通信領域で、中国はすでに世界的に突出している。 また、中国で「量子の父」と呼ばれている中国科学技術大学の潘建偉教授は、世界初 の「1000キロ級」人工衛星―地上間双方向量子通信に成功しており、2017年9月29日には、世界初の量子暗号通信「北京-上海幹線」を正式に開通させている。

少ない米国政府の研究費

   一方のアメリカはどうか。

   IBMは2016年5月、量子計算プラットフォーム「Quantum Experience」を開発し、ユーザーがIBM量子CPUを使って量子アルゴリズムの実行、個々の量子ビットの操作などの試験的な使用を許可し、量子計算の「無限の可能性」を知ってもらおうとした。

   2017年夏にはCPUをレベルアップし、同年末に、世界初の50量子ビットの量子コンピューター原型器のデビューを宣言した。このほかにも、IBMは業界初の商用の汎用量子計算プラットフォームIBM Qの制作を計画、さらにJPモルガン・チェース&カンパニーなどの企業と協力して、2021年に金融領域での初の量子計算アプリを打ち出す計画だ。

   IBMのほか、グーグル、マイクロソフトも相次いで参戦している。2018年3月には、グーグルと米航空宇宙局(NASA)などが連携して設立した米国量子人工知能実験室は、ロサンゼルスで開かれた米国物理学会年次総会で72個の量子ビットの量子CPUを発表。この「ブリッスルコーン・パイン」と命名されたCPUは、計算領域にコペルニクス的な大転回を引き起こすと広く考えられている。マイクロソフトも量子計算研究を開始してすでに12年を超えている。

   しかし、米国政府が量子コンピューター領域に投入する金額は中国に比べて「全然足りない」と一部の研究者たちは指摘している。ブルームバーグ・ニュースは米国政府の2016年7月のレポートを引用して、政府出資の量子研究費が毎年2億ドル程度に過ぎないことを明らかにしている。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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