「携帯電話依存」から変身図る
5Gは、「通信とメディアの融合」とも密接に絡む。ベライゾンは米ヤフーのメディア部門を買収したし、AT&Tは米タイムワーナーの買収を発表済みと、はるか先を行く2強についていくためにも、統合が必要だった。
統合を後押ししたもう一つが、ソフトバンクの事情だ。今回の合併合意後、初めて公の場で孫会長兼社長が語ったのは5月9日の決算発表の場。「(昨秋の統合断念から)半年でまだ舌の根も乾かぬうちに変移した、信用がおけないと評価されると思うが、恥ずかしい思いも分かったうえで、飲み込む」と語った。米携帯事業について「4位のままでいるよりも、合併によって上位2社と規模的にほぼ並ぶ。米国で1位になる可能性も戦略的に見えてくる」と述べたが、その背景には「携帯電話依存」から徐々に変身を図っている孫氏の戦略がある。
同じ会見で、孫氏は「私自身の関心が、より『群戦略』に移ったのが一つの要因」とも述べた。多様な事業で稼ぐ経営戦略で、2017年にサウジアラビア政府などと立ち上げた10兆円ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」がその中心。孫氏はスマートロボットやAI(人工知能)、IoT関連ビジネスへの関心を強め、持ち込まれる案件を吟味する作業が「楽しくてしょうがない」と公言している。
様々な投資を重ね、旧日本債券信用銀行破たんを受けて後継のあおぞら銀行の筆頭株主となり、巨額の売却益を得るなどしたうえで英ボーダフォンの日本事業を買収して携帯事業を核とする「実業家」として隆盛を誇った孫氏の、「投資家回帰」と見る向きもある。
そんな孫氏においては、米携帯事業への拘りは、もはやかつてのように強くはないのかもしれない。