「アボカドという名前自体が人類に災厄をもたらす、ということであり、人類の平和を乱すということにもなる」――そう喝破したのは、漫画家の東海林さだおさんである。エッセイ『目玉焼きの丸かじり』所収の「アボカドの身持ち」の一文だ。というのも、世の中にはアボカドを「アボガド」と間違える人が少なくない。「そうすると、待ってました、と待ちかまえている人が必ずいて、『アボガドじゃなく、アボカド!』と強く否定する」。すると、訂正された側は相手を「恨みに思い」、場の空気を悪くし、ひいては「災厄をもたらす」――という論法だ。試しにつぶやくと...すぐに「いいね」が!確かにアボカドのことを「アボガド」と間違ってしまう人は多い。そもそもこの名前自体、オックスフォード英語辞典によると、原産地メキシコの現地語「アーワカトル」が、スペイン語で弁護士を意味する「アボカド」と混同されて生まれたという。由来からしてややこしいのだ。「広辞苑」ですらそう。最新第7版には、「クスノキ科の高木、また、その果実。(中略)アボガド。」と併記されている。さて、世の中には、この「アボガド」を「アボカド」と正すことに、熱い情熱を傾けている人がいる。しかも、相手に「恨み」を残すことなく、むしろ喜ばせすらするのだ。そんな情報を入手したJ-CASTニュース編集部では、試しにツイッターで、こうつぶやいてみた。「アボカドとアボガド、あなたはどっち派ですか?」そのわずか1~2分後である。投稿に「いいね!」がついた。そのアカウント名は、「アボガドをアボカドに訂正する委員会」(@avogado_janai)きっかけは母親の「アボガド」呼びこの「アボガドをアボカドに訂正する委員会」というアカウント、ツイッター上で「アボガド」とつぶやくとどこからともなく現れ、無言で投稿に「いいね」を残していく。捕捉された人は、「アボガドじゃなくてアボカドなのね。アボガドをアボカドに訂正する委員会さんに『いいね』されて気づいた」「ひぃーーーアボガドをアボカドに訂正する委員会さんごめんなさいいいいいアボガドのことを今度からちゃんとアボカドって言いますうううう><」と、自ずから行いを改めるという寸法だ。すでに2年近く活動を続けており、これまでに押した「いいね」は8万件近い。J-CASTニュースでは、その「中の人」にツイッターのダイレクトメッセージで話を聞いてみた。――どのようなきっかけで、この活動を始めたのですか?委員会 母が「アボガド」と発音するのが普段から気になっており、同様に発音する人が他にもいるのだろうか?と疑問に思ってツイッターで検索したところ、そのようなツイートがたくさん見受けられたので、「これはいかん」と思い活動を開始しました。「アボカド・アボガドどちらが正しいか」ということよりは、言葉に対する感受性をきちんと持っていてほしいという思いが強いです。ネット上ではbotなどを使って、機械的に「捜索」を行っているのでは、と考えている人も多いが、なんと作業は完全手動だ。ツイッターの検索フォームに「アボガド」と入力し、ひたすらに探し続けるという、地道な作業を続けている。「皆様のツイートの内容を見るのも楽しみの一つなので、自動化は考えていません」という。1日100~200件の「訂正」を続ける――どのくらいのペースで「訂正」を行っているのですか?委員会 一日だいたい100~200のツイートを訂正しています。通学・通勤時間など、隙間時間を活用していて、訂正活動は日常生活に溶け込んでいるようなイメージです。用事などで忙しい日はサボる時もあります。一応、中の人はバレたくないので、電車の中などではスマホの画面を少し隠しながら訂正しています。――なぜ、「いいね」という形で指摘を?委員会 活動初期はリプライで訂正をしていたのですが、リプライだと「訂正しろ!」という圧力が強かったようで、怒られることが非常に多かったので、現在のスタイルに変更いたしました。現在ではありがたいことにあまり怒られません。確かに、「訂正」を受けた人の中には、「キタァー!うれしいー!」と喜ぶ人もある。わざと「アボガド」とつぶやいて訂正を待つ人さえいる。本人としても「非常に嬉しい」そうだ。さらにツイッター上には、「アボガドをアボカドに訂正する委員会をお手伝いする委員会」なるアカウントも存在する。同じように「アボガド」と発言した人に「いいね」し続けているのだが、実は一切交流がなく、何者なのかもわからないという。「一体どのようなモチベーションで手伝ってくださっているのか、気になるところです」と「中の人」も首をかしげる。あえて「アボガド」呼びする人をどう思うか――アボカドを「アボガド」と呼ぶ人、あるいは「どっちでもいい」という人のことをどう思いますか?委員会 前述のように、一番大事だと考えているのは言葉に対する感受性ですので、「アボカド」「アボガド」両方の呼び方があることを理解した上で、こだわりを持って「アボガド」を選択する・あるいは「どっちでもいい」とする方がいらっしゃるのは、むしろ喜ばしいことだと捉えています。あまりこだわりを持たずに「呼び方なんてどうでもいい!」とする意見には反対です。――今後の活動への意気込みは?委員会 この活動によってアボカドorアボガドという一つの表記ゆれを日本からなくすことができるかもしれない、ということに大きなロマンを感じて日々活動しています。活動の知名度を上げていくために、今後は「いいね」による訂正だけではなく、より面白いコンテンツを発信していくことも必要だと考えています。その一環として、LINEスタンプを作ったものの、「全然売れませんでした」と苦笑いする。Googleトレンドのデータによると、「アボカド」と「アボガド」の検索件数は、2004年ごろはほとんど差がなく、それどころか「アボガド」の方が多い時期さえあった。それが最近では「アボカド」が圧倒的に多くなり、「アボガド」の検索件数は減少傾向が続く。近い将来、本当に「アボガド」という表記ゆれが消滅する日が来るかもしれない。そんな「大きなロマン」を夢見つつ、「アボガドをアボカドに訂正する委員会」は「いいね」を押し続けている。
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