2024年 5月 5日 (日)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
隠れトランプ支持者も抱える不安と孤独

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   ニューヨークに住む知人のジョナサン(40代)は、親戚の前で政治の話をするのを一切やめることにしたという。

   数年前、マサチューセッツ州の親戚の家のポーチで談話していた時、当時大統領だったオバマ氏の外交をやんわり批判すると、親戚のひとりが突如、顔色を変え、「なんだ、その言い方は。僕はオバマを敬愛しているんだぞ」と激しい口調で言い返された苦い経験があるからだ。

  • トランプタワー前で、トランプ大統領の再選を訴えるトランプ支持者
    トランプタワー前で、トランプ大統領の再選を訴えるトランプ支持者
  • トランプタワー前で、トランプ大統領の再選を訴えるトランプ支持者

意見の違いで離婚するケースも

   「あんな攻撃的な彼を見たのは、初めてだったよ。オバマ批判でさえ、あの勢いだ。民主党支持者が多い親戚の前で、トランプ支持発言でもしようものなら、縁を切られるよ」と苦笑する。

   現にトランプ氏を嫌悪する私の知人のモーリー(70代)は、自分が生まれ育った米中西部に住む兄弟や友人がトランプ支持者と知り、連絡を取らなくなったという。トランプ氏をめぐる意見の違いから離婚に至った夫婦や、別れることになったカップルもいる。

   精神科医やサイコセラピストなどの専門家によれば、トランプ支持者のなかに孤独感や疎外感を訴える人が増えているという。

   この連載の前回の記事で、反トランプ派のなかに「トランプ不安障害(Trump Anxiety Disorder=TAD)」に苦しむ人が増えていることを取り上げた。一般の不安障害とは異なり、トランプ氏に関わるもので、同氏の言動に「人類が滅亡するのではないか」、「戦争が始まるのではないか」、「次に何が起きるのか」という不安や絶望にかられる。ソーシャルメディアで過度に時間を費やし、夜眠れないなどの症状も見られるという。

   サイコセラピストのエリザベス・ラモット氏は、「不安を抱えているのは、反トランプ派だけではない。その理由は違うものの、トランプ支持派の間でも不安を抱えて訪れる人が増えている。トランプ支持を知った友人や家族に気分を害され、失望され、疎外感を覚えている。職場や友人との会話で、また感謝祭などの休日に家族と過ごすなかで、言いたいことを言えずに孤立してしまう」と話す。

SNSで広がるレッテル貼り

   観光でニューヨークを訪れていたあるアメリカ人夫婦(50代)は、スポーツクラブの経営者だが、ビジネスに影響が及ぶことを恐れ、「隠れトランプ支持者」であり続けていると私に話した。

   60代の知人のロブは、大統領選キャンペーン中から フェイスブックの「友人」がトランプ氏や支持者をバッシングする投稿を流し続けていることに、不快感を隠さない。

   別のトランプ支持者は、孤独感や疎外感だけでなく、強いストレスも感じているという。

「トランプ氏や支持者が繰り返し批判され、笑い者にされ、攻撃され続けている。僕らも、差別主義者だの、教育レベルが低いだの、勝手にレッテルを貼られて、もうたくさんだよ」

   フェイスブックなどのソーシャルメディアでは日々、「トランプ支持者ら。恥を知れ!」(Trump supporters. Shame on you!)といった投稿が飛び交っている。

   トランプ大統領就任式の日(2017年1月20日)の朝、トランプ支持者の私の友人(60代)のベッツィが浮かない顔だったことを思い出す。彼女は以前、大きな期待を込めてオバマ大統領に投票したが、「オバマ氏の政治家としての力量に失望し、今回はトランプ氏に一票を投じた」という。

   その日、マンハッタンの彼女の職場では、大きなスクリーンでテレビ中継を見ることができるように配慮されていた。

「自分が一票を投じた大統領の就任式だもの。もちろん見たいけれど、仕事をしているわ。祝う気になれない人に囲まれて、孤独を味わうのは嫌だし、彼に対する誹謗中傷も聞きたくないから」

   それ以来、トランプ氏をめぐる状況は、あまり変わっていない、とベッツィは感じている。

   2017年2月のオンライン調査によると、アメリカ人の3人に2人が米国の将来についてストレスを感じている。そしてそのほとんどが、政治的な分裂が激しいことを理由にあげているという。

   サイコセラピストなどの専門家らは、トランプ支持派も反トランプ派も、「不安を取り除くには、ソーシャルメディアといった、不安をかき立てる要因からなるべく距離を置くように」と呼びかけている。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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