2019年 6月 20日 (木)

福岡市は「アジアでいちばん幸せ」な街になれるか 高島宗一郎市長インタビュー

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   日本の人口が減少に転じる中、年に1万人以上のペースで人口が増え続けるのが福岡市だ。就職・進学を機に九州各地から流入してくる人が多いのはもちろん、IT系の企業が相次いで福岡に拠点を置いていることも、「移住」を後押ししている。

   福岡市が目指すのは「アジアのリーダー都市」。それは、果たしてどんなものなのか、「完成形」はあるのか。2018年11月の市長選では史上最多得票で3選を果たし、初の著書「福岡市を経営する」(ダイヤモンド社)を出版したばかりの高島宗一郎さんに、福岡市出身の記者が聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 福岡市長の高島宗一郎さん。福岡市は「アジアのリーダー都市」を目指している(撮影/北嶋幸作)
    福岡市長の高島宗一郎さん。福岡市は「アジアのリーダー都市」を目指している(撮影/北嶋幸作)

「今日よりも明日の方がよくなっていく」感

―― 福岡市は人口が増えるだけでなく、税収も5年連続で過去最高(17年度決算ベース)を記録しており、全国的にも注目されています。半面、全国的には人口は減少しています。同じ福岡県内の都市でも、北九州市は人口の減少が続き、小倉駅前の百貨店「コレット」は業績不振で19年2月末の閉鎖が決まりました。なぜ福岡市だけ、こんなに景気がいいのでしょうか。

高島: 2010年に初めて出馬したときの私のキャッチフレーズは「とりもどせ元気、とりもどせ信頼」でした。今そんなこと言って市長選に出たら、「何言ってんだお前、あんたに言われないでも...」っていう話になると思うんです。ずっと良かったという訳ではなく、やっぱり空気が変わったんだと思うんですね。私だけではなく、市民のいろんな人が、「福岡今元気だよ」といった話をするから、それがいっぱい広がって全国の人が「福岡がいいらしい」という話になっているんだと思います。だから空気を変えていく、「今日よりも明日の方がよくなっていく」感が一番大事だと思っているんですね。例えば「予算をひとり100万円かけてこれだけの実効的な施策をします」といっても、(福岡市の人口)158万人すべてに対してそれほどの予算を使うのは現実的ではありません。「福岡はこれから良くなっていく、こういう方向で行くんだ」というベクトルを見せていくようにしています。そうすることで,その未来図を皆が一緒に想像したりして、ジャンルや仕事はバラバラだけど、みんなそれぞれの形で、その方向性にかかわっていく人が増えていると感じます。仕事がないと住むことはできないし、ワクワクする街じゃないと住みたくないものです。

―― まずはマインドがあって、そこに色々な数字がついてくるようなイメージでしょうか。

高島: そうですね。「よく動く水は腐らない」という言葉があるように、とにかく動き続ける。だから常にプロジェクトというものを、「こういう風に動きますよ」ということをみんなに意識していただけるような形で、タイムリミットを決めて進めています。

高度人材を囲い込むための先行投資

―― 福岡市は12年に「スタートアップ都市」を宣言しました。18年8月に博多ラーメンチェーン「一風堂」の都内店舗で行われた福岡市への移住促進イベントに招待されたのはエンジニアで、そこでアピールされたのは福岡市のスタートアップ企業でした。呼び込む対象として彼らを重視する理由を教えてください。

高島: 大きくふたつあります。ひとつが、福岡市は全国に20ある政令指定都市の中で唯一、1級河川がありません。つまり川から大量に取水できないので工場が作れないという都市としての弱点があるわけです。だからこそ知識創造型産業っていうところで生きていくしかないという宿命を背負っています。
もうひとつが、企業においても社会においても、生産性の向上が言われているなかで、「人は少なくて済む」時代になっていきます。人の代わりに、人工知能(AI)やテクノロジーがカバーしてくれるとなった時に職がなくなってしまう。一方でそうかもしれないけれども求められる職種もあるわけですね。それがまさに新しくビジネスを作っていく分野で、その技術を裏で支えるエンジニアがきわめて重要になってくる。ですから、こういう高度人材をいかに街として抱え込めるかが、これから成長していけるかどうかの鍵です。仮に福岡で起業家が生まれても、それを支えるエンジニアがいなければスケールアップしていきません。今から時代が来る先を読んで、そこに私は先行投資をしているつもりです。間違いなくこの人たちの時代がきます。いいエンジニアが集まる環境を早く作っておくことが重要です。

―― 福岡市内の総生産のうち約9割が、サービス業などのいわゆる第3次産業です。こういったこともあって、ゲーム開発会社の「レベルファイブ」、ウェブサービスの「ヌーラボ」やLINEの第2拠点など、情報通信産業で福岡市に拠点を置く会社の存在感も増しています。

高島: エンジニアは結構転職もあるので、仮に福岡に居を構えて家族ができ、子どもが学校に行き出したときに転職しても、福岡にエンジニアを雇用する会社が少なければ「東京に引っ越さないと」と転校せざるを得なくなります。でも、福岡に企業を集積させておけば福岡の中で転職の選択肢が広がるので、子どもを転校させずにすみます。圧倒的なコミュニティを、ここに今作っておくことが大事です。福岡市が「スタートアップ都市」を宣言したのは12年ですが、それから6年ほど経った今になって、他の都市もその重要性に気づき始めています。福岡は次の段階、エンジニアに注目しています。いい人材を福岡で囲い込んでおきたいです。

指原莉乃も嘆く「箱がない」問題

―― 12年時点の福岡市の推計では、人口は35年の160万人をピークに減少するとされていますが、高島市長は「想定をどんどん壊していきたい」「集まれば集まるほど、もっと栄える」と発言しています。実際、数年以内に160万人を超える可能性が高いですが、人口増にはリスクがある、という指摘もあります。大きくふたつあり、ひとつが「箱」の問題です。2019年に日本で初めて開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議は福岡市での開催が有力視されていましたが、ホテルの収容数がネックになって大阪市の開催になりました(福岡市では財務相会議を開催)。コンサートの会場もそうです。例えば福岡市を拠点にするアイドルグループのHKT48は18年12月15日に東京でコンサートを開きますが、福岡開催を望むファンの声に、指原莉乃さんは「人気の場所なのに会場がなさすぎる」とツイートしています。

高島: これは、福岡市が正しい成長の過程をたどっているということなんですね。私の名刺にも刷ってある「FUKUOKA NEXT」というマークは、矢印で福岡を次のステージに進めることを表していますが、次のステージに上がるにあたって成長痛を可視化するというのは非常に重要なキーワードです。この成長痛を市民と共有できる前に「ホールを作りましょう」「滑走路を増やしましょう」「ホテルを増やしましょう」というと、「ハコモノ行政」だと言われてしまいます。

―― ハコモノが先行すると批判が出ますね。

高島:街の大きな絵を描いていくときに、ソフトからハードの順番で施策は進めていく必要があります。「それだけの需要はあるんですか」「それは本当に活きるものになるんですか」ということをきちんと証明できる前にハードを作ってしまうとハコモノと言われるし、場合によっては本当に失敗する可能性もある。だから福岡はソフト施策をまず充実させてきたんです。これで交流人口(福岡市を訪れる人の数)を増やすとか、国際会議もどんどん手を挙げるとかMICE(マイス=国際会議や展示会など)もどんどん手を挙げる中で、供給よりも需要のほうがものすごく大きくなった。その結果、今、箱が足りない、供給力が足りないことによってMICEなどをお断りしています。機会損失がものすごい額生まれています。この問題をアイドルがツイートするくらい、市民の間で問題が可視化されて問題意識を共有できたということなんですよ。これは、極めて狙い通りの成長の過程をたどっているということです。

ロープウエー公約が「計算通り」だった理由

―― 博多港のウォーターフロント(WF)地区では再整備の計画が進んでいます。

高島:WF地区の再整備では、単に高島が「今からマリンメッセ福岡の前にもう一個マリンメッセをつくります。福岡サンパレスホールをなくしてその斜めの所にもう一個新しくホールつくります、福岡市民会館を建て替えて、今は大きなホール一つのところを大・中・小をつくります」と言っただけでは、「なんという再開発好きな、ハコモノ市長か」ってなりますよ。でもそれを言われずに最多得票で再選できたのはなぜかと言うと、こういった再開発の必要性が可視化されて、市民の皆さんの納得感があったからです。一時的な成長痛が可視化されている状況があるからこそ、次の福岡を描けるわけです。

―― WF地区以外にも、天神地区で24年末までにビル30棟を建て替えて店舗やオフィスの面積を増やす「天神ビッグバン」構想が進んでいます。こういった構想が成長痛をなくすための施策だと思いますが、先日の市長選では天神ビッグバン自体は争点になりませんでした。合意が得られているように見えます。唯一の対立候補だった共産党系の候補者が争点のひとつとして挙げたのは、博多駅とWF地区をロープウエーで結ぶ構想でした。

高島:実はロープウエーは、あえて公約に入れました。実は1年くらい前から有識者の中でずっと検討してもらっていたのですが、市民のほとんどが知りません。そこで公約に入れることで議論が起きるわけですね。そうすると「そもそもなぜ必要なんだ。なぜロープウエーなのか。そんなことするなら福祉に使え」という計算通りの議論が出てくるわけですね。そうしたときに「なぜ必要なのか。なぜその目的達成のための比較優位性がロープウエーにはあるのか。そして本当にそのお金はいくらかかるのか。それをしなかったら福祉が充実できるのか」ということを説明していけばいい。それと同時に、交通という街づくりを、皆が他人事じゃなくて考えるきっかけになるんですね。

―― 議論を喚起するために公約に入れた、ということですか。

高島: 福岡には、例えば「どうして一番人が来るヤフオクドームに地下鉄が通ってないのか」とか、色んな「交通なぜなぜ」がありますよね。今回のロープウエーの件にしても「どうしてそれが必要なのか」ということを、決まる前に問題提起することで議論が起きます。そこで聞く準備ができた人に対して必要な情報を伝えると、すっと浸透していくんです。そうでない段階で情報を伝えても、誰の耳にも入っていきません。先ほどお話ししたように、WF地区の再整備が進めば、とてつもない滞留人口になるわけですね。今ですらコンサートが1個終わったら外に出られないくらい渋滞しているのに、さらに人が来たときどうなってしまうのか。地下鉄を掘ることもできますが、費用はロープウエーの7倍かかる。それでビーバイシー(B/C = 費用対効果)が取れるのか。LRT(次世代型路面交通電車システム)やBRT(バス高速輸送システム)は、今でさえ大混雑している中でどうやって専用レーンを置くのか。モノレールは車両基地が必要...、みんなの疑問が高まっている中で、今のような有識者の議論を踏まえて説明をしていけば、腑に落ちるわけですね。

人口増と「修羅の国」は切り分けて

―― 人口が増えることに対する懸念の二つ目が、治安の問題です。18年度の「福岡市制に関する意識調査」では「福岡市は『住みやすい』と答えた人が97.1%で、3年連続で過去最高を記録していますが、この調査では「市民のマナー」「犯罪の少なさ」に課題あり、とする声も多いです。福岡県のことを「修羅の国」と呼ぶ向きもあります。このまま人口が増えても大丈夫なのでしょうか。

高島: その通りなのですが、切り分けて考えることが大事です。天神ビッグバンが動き出す前は、マナーは良かったんですか?自転車や車の運転マナーなどは昔から良くないですよね。そこと再開発や人が増えてくることは変わりなくて、むしろ外から入ってきた人は福岡の運転のマナーの悪さを驚いているかもしれないですよね。そもそもの住んでる人たちの「もうよかろうもん」という気質も変えていかなくてはいけません。一方で、入管法が変わってきて外国人労働者が一気に入ってくるとなると、福岡だけではなく、国全体として常識の元々のベースが違うところが調和するまでには時間がかかるだろうと思います。質問とは別件にはなりますが、入管という「ゲート開け閉め」だけの話ではなく、共生に向けた施策も必要です。今では地方やNPOに投げっぱなしで、国は責任を持っていません。このまま国として予算や施策などの手を打たないとなると、相当混乱が起きると思います。

―― これまでに何回か出ている「交流人口」という観点では、移住する人以外に観光客を増やすことも重要だと思います。ですが、このあたりで観光地としてポピュラーな太宰府天満宮は太宰府市ですし、福岡市には観光資源が乏しい、という声もあります。市長はどんな観光地をお勧めしますか。

高島: もちろん博多は食がおいしいので、夜の観光が中心になってくるかと思います。一方で、福岡市だけにとどまらなくてもいいと思っていて、太宰府(太宰府市)や宗像大社(宗像市)に足を伸ばすというのもありです。ただ一方で、福岡に何もないわけではなく、それこそ京都より長い2000年の歴史があります。お茶や饅頭、そば、うどん、ういろう...、こういうものの発祥の地が福岡で、その記念碑があったり、それにまつわるお寺や神社があります。龍宮寺というお寺には、13世紀に現在の博多港で捉えられた人魚の骨だとされるものまであります。こう、すごい宝物があるのに、福岡の人自身、あまりそういうことを意識していません。「博多」にあたるエリアにはこういったスポットは多いのですが、それが「点」にしかなっておらず、「線」として、ストーリーとして展開できていません。ストリートをつないで街並みを「面」として展開することが必要です。道をつくるのは行政の仕事なので、道を石畳風に変えていくことで、近隣の民家も改築のタイミングに合わせて、街並みや、景観をそろえていければいいと考えています。時間かかりますが、「旧市街」として熟成するだけの宝はすでにあると思っています。

「アジアのリーダー都市」の本当の意味

―― 福岡市は「アジアのリーダー都市」になることを目標として掲げています。著書では、エストニアのe-residency(あらゆる手続きを電子化する)へのシンパシーや、ポートランドの「ちょうどいい」(moderate)感へのあこがれも明かされていますが、「アジアのリーダー都市」とはどういうものなのか、もう少し具体的に教えてください。「これが完成形」といったイメージはあるのでしょうか。

高島: 一言で言うと、そこに住んでいる人が「アジアでいちばん幸せ」だと思える都市です。そのために必要な条件を考えると、「人」「環境」「都市活力」の3つだと思います。かつては「高いビルが建っているところに行くのが憧れ」だという時代もありましたが、もうそういう時代ではなく、自然や食物の安心、空気の良さも重要視されている。そうかと言って山奥に行けば収入が下がるので自己実現ができない。
文化や「つながり」が大事になっていく中で、この3つが高い次元で調和できるような都市を目指しています。みんなが今から住みたいと思うんですよね。だから、「アジア」ってつけているのは、福岡がアジアに近いから「アジア」と言っていますが、世界の市民が今から住みたいって思えるような街をいっしょにつくっていこう、というのがゴールです。ですから、例えば「スマートシティになったらみんなが幸せになる」わけではなく、ゴールとして「こういう街になればいい」ということあるわけでもなく、その方向に向かって変わり続けるという希望がみんなを幸せにしていくんじゃないかと思います。そんな街をいっしょにつくっていこう、私たちはそんな街の住人になれる、そういう方向に向かって努力をしているときがいちばん幸せなのではないでしょうか。だから「リーダー都市」というのは、決して1番になった状態を指すことではなく、その目標に向かってほかの人がまだ歩んでない道に最初の一歩を踏み出していく、そういった価値観を作り出していく都市です。福岡はそういう価値観を作っていこうという、チャレンジャーでありたいです。

―― 「完成形」というものは存在せず、いつまでも成長は続く、ということですね。

高島:(バルセロナのサグラダ・ファミリアが代表作の)ガウディですね。いつまでも完成はないと思うんですね。「こういう街に住んだらみんな幸せになります」という街はなくて、そこを目指して常にアップデートし続けていくことが大事です。

出馬断っていたら山崎拓氏が市長に...?

―― 著書では、初めて出馬した10年の市長選で、もし高島さんが自民党からの出馬要請を受けなければ、山崎拓元副総裁の出馬が内定していたことが明かされています。73歳の市長が誕生した可能性もあったわけです。ですが、実際は3期目に突入した現時点で44歳、仮に4選を果たしても48歳です。著書には「ピーク期間の間にどれだけのことができるか」とありますが、どのくらいまで市長を務めようと思いますか?

高島: 自分自身が「まだまだやりたい」という気持ちが衰えない限りすれば良いかなと思っています。でも、客観的に見ると、自分のやる気はあるけれども、街のためにいつ引くべきなのか、次の世代にいつ渡すべきなのかは、色々な人を見ながら反面教師として、自分もしないといけないのかな、とは思っています。

―― 一連のプロジェクトを見ると、余人を持って代えがたいように思いますが、「ポスト高島」的な人材の育成は進んでいますか。

高島: それは本当に大事な課題ですよね。市長はうまくバトンタッチしていかないと...。戦って交代してしまうと、どうしても前の人のものを変えたくなることもあるでしょうし...。私としては、今進んでいるプロジェクトを着実に進めていただける人に、その人ならではの新しいセンスも加えて進めていただければと思いますが、そう簡単にはね...。女性や若者も、是非これからどんどん首長になって、そのセンスが街に入ってきて欲しいなと思います。私になかった感性・感覚をもっと市政に持ち込んでいただくと、さらに街に厚みが出てくるんじゃないかと思います。

高島宗一郎さん プロフィール
たかしま・そういちろう 1974年大分市生まれ。1997年九州朝日放送(KBC)に入社。福岡の朝の顔としてワイドショーや環境番組のキャスターを務める。2010年12月に福岡市長就任。14年、18年の選挙でいずれも史上最多得票を獲得し再選、現在3期目。今回出版した「福岡市を経営する」(ダイヤモンド社)が初の著書。


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