2024年 4月 25日 (木)

カツラボクサー・小口雅之さんは今 「色々な会社から育毛剤を頂きましたが...」

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   約10年ぶりに再会した小口雅之さん(41)の顔は、現役時に比べると幾分ふっくらしていた。待ち合わせた場所は、東京都足立区竹の塚にあるもつ料理店「大松」。エプロン姿で愛想よく常連さんと触れ合う小口さんに、元プロボクサーの面影はみられなかった。

「そういえば、あの試合も12月の今頃でしたよね」

   こう口にした小口さんは、懐かしそうに目を細めた。今から13年前の2005年12月13日、その事件は起こった。小口さんを一夜にして有名にしたあの事件、そう、あの「カツラ騒動」である。記者は当時、スポーツ新聞のボクシング担当としてこの一件を取材。以来、小口さんを取材してきた。

   当時、日本スーパーフェザー級の日本ランカーだった小口さんは、こともあろうにカツラを装着したまま試合を行った。ルールでは、リングでボクサーが装着可能なものは、トランクスとシューズ、そしてトランクスの下に装着するノーファールカップだけである。当然カツラはNGとなるが、それ以前にルールではカツラに関しての記述はない。

  • 「大松」での接客業に力が入る小口さん
    「大松」での接客業に力が入る小口さん
  • 昔よりも髪の毛が減った?現在の進行具合を披露した小口さん
    昔よりも髪の毛が減った?現在の進行具合を披露した小口さん
  • 現役時よりも丸みが帯びた顔の小口さん
    現役時よりも丸みが帯びた顔の小口さん
  • 「大松」での接客業に力が入る小口さん
  • 昔よりも髪の毛が減った?現在の進行具合を披露した小口さん
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「うれしいというよりも恥ずかしかったですね。」

   小口さんの前代未聞の行為は反則行為とみなされたが、日本ボクシングコミッションは試合後口頭での「厳重注意」に止めた。70年近い歴史を誇る日本ボクシング界で初の珍事だったが、対戦相手に及ぼした影響が少ないとされ、温情措置だった。

「あの試合から一気に有名になってしまって...。理由が理由だったので、うれしいというよりも恥ずかしかったですね。なにせカツラで有名になってしまったから」

   この試合の模様がワイドショーで取り上げられると一気にブレイク。「カツラボクサー」としてテレビ出演のオファーが絶えず、瞬く間に「時の人」となった。東京のキー局を中心にオファーが届いたが、なぜか関西ローカル番組からのオファーも多かったという。「カツラボクサー」としての知名度は抜群で、機内で偶然隣になった笑福亭鶴瓶さん(67)からカツラについてアドバイスされたことも。また、美輪明宏さん(83)からのアドバイスをもとに、蛍光色のロングヘアのカツラを着用して入場したこともあった。

「色々な番組に出させてもらって、今ではいい思い出ですね。昔のことなのでテレビ番組の内容までは覚えていませんが、出演者の皆さんにはとてもよくしてもらったのは覚えてます」

「髪の毛がふさふさになることはなかったですね」

   20代に入ってから抜け毛が多くなったという小口さん。なぜカツラを装着してリングに上がったかといえば、その答えは単純明快で「格好良く見せたかったから」。事件発覚後、さすがにカツラを装着して戦うことはなかったが、パフォーマンスの一環として、入場からカツラを装着してリング上で取り去って観客席に投げ込むのが恒例となった。

   このような「努力」の甲斐あって、現役中にいくつかの育毛剤の会社がスポンサーについた。頭皮に液状のものを刷り込むものもあれば、頭部に直接注射するケースもあったという。多少の効果はあったらしいが、期待したほどでもなかったらしい。

   小口さんは自らの頭部を記者に向けて丁寧に説明してくれた。

「色々な会社から育毛剤を頂いたり、注射したりしましたが、自分の場合、あまり効果はなかったですね。髪の毛が生えるというよりも抜け毛が減るという感じ。どっかの広告宣伝じゃないですけど、髪の毛がふさふさになることはなかったですね」

   テレビ出演にスポンサーがつくなど、世界王者顔負けの環境にいた小口さんだったが、本業のほうでは結果を出せずに苦しんでいた。カツラ発覚から4年目の2009年10月10日、小口さんにようやくチャンスが巡ってきた。自身初となる日本タイトルマッチ。日本スーパーフェザー級王者に挑んだ一戦は今でも悔やんでいるという。

   タイトル戦では1回と2回にそれぞれダウンを喫し、序盤で大勢は決した。持ち前の打たれ強さでKO負けこそ逃れたが、結果は0-3の大差判定負け。「言い訳はしたくないけど」と前置きした上で、小口さんは「減量に失敗したことが全て」と振り返った。

今の夢は「世界王者を育てること」

   小口さんが当初使用していた育毛剤が体質に合わず、以前のようなペースで体重が落ちなかったという。これに加えて、育毛剤を使用し続けた影響からか、以前と比べて筋肉が付きにくくなったと感じるようになったという。

「男性ホルモンの分泌に関係しているかもしれませんが、とにかくあの当時、いくらトレーニングをしても筋肉がつかなかった。それに比べて体重の減りがいつもより悪く、タイトルマッチの時は最後の1キロがなかなか落ちず、完全に減量失敗でした。これに加えて闘志が全く沸いてこなかった。やっぱりボクシングは闘志がなかったら勝てませんから。なんか気持ちが優しくなってしまったような不思議な感じでした」

   タイトル戦後は1敗1分けで、2011年4月の試合を最後にリングから離れた。ただ、小口さんに引退の意志はなく、ジム通いは続けていたという。「いつかまたリングへ」との思いを抱きながら練習を続けたが、やはり体調が戻ることはなく、ボクサーの定年である37歳を迎えた2014年に自動的にライセンスを失効した。

   私生活では2012年10月に千夏さんと結婚。現在は運送業に携わる傍ら、千夏さんの父親が経営するもつ料理店「大松」(東京都足立区竹の塚)を手伝っている。

「プロボクサーとして一番印象に残っているのは、当たり前ですけどあのカツラがばれた試合です。一番悔やまれるのは日本タイトル戦です。自分の中では、はっきりと引退したつもりはないですけどボクサーには定年がありますから。今ではそれを受け入れてます。髪の毛も今じゃここまで後退してしまったし」

   どこか恥ずかしそうに顔を赤くしながら頭をたたいた小口さん。今の夢はボクシングのジムを開いて世界王者を育てること。髪の毛はもう諦めたという。

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