2019年 7月 16日 (火)

ゆうちょ「限度額倍増」評判が悪い理由 反対意見を押し切ったのは...

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   ゆうちょ銀行が扱う貯金の預入限度額が、4月から現在の1300万円から2600万円に倍増される。当事者の日本郵政、監督官庁の総務省、金融庁、与党自民党などの激しい駆け引きの末に決まったが、郵政関係の票を期待した政治決着の側面が指摘され、郵政民営化の在り方など根本的な議論は先送りされた。

   こうした経緯から、新聞論調も概して冷ややかだ。

  • 預金限度額が倍増した(画像はイメージです)
    預金限度額が倍増した(画像はイメージです)

昨春予定がもつれにもつれ

   民間金融機関の預金に当たる貯金は、普通預金に相当する出し入れ自由の通常貯金と、貯蓄性の高い定期・定額貯金があり、預入限度額は全部合わせて1人1300万円。2007年の日本郵政の株式会社化以降では、2016年4月に1000万円から引き上げられた。

   郵政の組織は、持ち株会社の「日本郵政」の傘下に「ゆうちょ銀行」、「かんぽ生命保険」、「日本郵便」の3社がぶら下がる。現在、日本郵政株の63%を政府が保有し、日本郵政が金融2社の株の各89%、日本郵便の全株を持ち、日本郵政株の政府保有比率は最終的に「3分の1超」に、金融2社株は全て民間に売り払うことになっている。

   民営化の途上にある郵政は、各省庁から独立した郵政民営化委員会が監視・検証する。具体的に、限度額の変更などは民営化委で議論して意見をまとめる形になる。その過程で、自民党郵政族への根回しや省庁間の折衝が水面下で行われる。限度額の緩和は、2018年春にまとまるはずだったが、調整が難航し、年末まで遅れた。

   限度額は総務省と金融庁の共管事項。日本郵政の長門正貢社長が2018年3月、民営化委のヒアリングで通常貯金の限度額をなくすよう求めた。退職金など1300万円を超えるまとまったお金が預かりにくく、利用者にとって不便というのが理由だ。郵便局の窓口で、上限額を超えた利用者に説明するなど職員の負担になってもいた。全国郵便局長会(全特)は貯金を集める手数料の増加を期待、その意向を受けた自民党が限度額撤廃・拡大に動き、総務省も同調した。

ゆうちょ銀にとっては「重荷」の側面

   これに対し、金融庁や銀行界は反発。ゆうちょ銀の民営化が進まず、政府の後ろ盾を持ったままでは、民間の預金が貯金へ移る資金シフトが起き、「地域の金融システムに多大な悪影響を及ぼす恐れがある」というのが反対理由で、いわゆる民業圧迫論だ。

   金融庁はゆうちょ銀の経営へのマイナスも懸念した。貯金が集まっても超低金利の下では「日銀の当座預金に預ける以外に手がない」(麻生太郎金融相)とあって、むしろ経営上の重荷になりかねないという心配だ。

   水面下の折衝は難航した。10月の郵政族議員幹部の会合に呼びつけられた金融庁幹部が強く限度額引き上げを求めたというが、金融庁は反対姿勢を崩さず、こう着状態が続いた。11月下旬から事態はようやく動き始め、民営化委の岩田一政委員長(元日銀副総裁)と総務省、金融庁幹部らの協議で、岩田委員長が利便性の観点から限度額引き上げを訴え、金融庁に対案を示すよう要望。これを受け、金融庁は300万円増の1600万円という案をまとめた。「3年以内に日本郵政のゆうちょ銀株保有比率を3分の2まで落とす」「貯金獲得の報奨金(インセンティブ)をなくす」という条件も付けた。

   その後の折衝で、最終的に限度額は計2600万円で決着。金融庁が出した条件も、インセンティブをなくすことになったものの、ゆうちょ銀株売却は「将来的」課題とされ、実質的に無視された。

金融庁関係者「自民党に押し切られた」

   全特は参院全国比例区で組織内候補をトップ当選させる自民党最大の集票マシンで、「全特の意を受けた自民党に押し切られた」(金融庁関係者)のだ。

   全国紙5紙は民営化委の提言が出された年末以降、社説(産経は「主張」)で取り上げた。利用者の利便性や郵便局の事務負担の観点から、「確かに利用者や郵便局には利点があるだろう」(朝日2019年1月10日)、「限度額を超えた際の利用者への通知や手続きの説明は、現場の事務負担になっていた。引き上げで軽減が期待できそうだ」(毎日1月15日)など、部分的には評価する。

   だが、民業圧迫、郵政の経営の在り方、民営化の遅れという観点での評価は厳しい。「日本郵政による保有株の放出が進んでいない現状を踏まえれば、郵便貯金のなし崩しの膨張は、政府の信用をてこにした民業圧迫のそしりを免れない」(日経2018年12月23日)、「民営化委も、(ゆうちょ銀は)適切な運用先が少なくなり、マイナス金利も含めた日銀預け金が増加していると指摘し、『その適正化が大きな課題』と述べている」(朝日)、「貯金が拡大すれば、その分、運用リスクも高まる。ただでさえ超低金利時代である。ゆうちょ銀は利回りの高い外国債券などの運用を増やしているが、リスク管理への懸念は拭えない」(産経12月28日)と、問題点を列挙している。

右も左も批判的見解

   今回の決定過程での全特の圧力についても、産経が「限度額の見直しは自民党が求めてきたことでもある。来年の統一地方選や参院選をにらんだ思惑が先行する面はなかったか」、読売(2019年1月28日)が「全国郵便局長会の支持を受ける自民党は、大幅な引き上げを求めていた。今回の決着には政治的な事情も影響したのではないか。」、毎日も「限度額の撤廃を強く要望してきた団体がある。自民党の支援組織である全国郵便局長会だ。......今年は春に統一地方選、夏に参院選が予定されるが、限度額引き上げと無縁ではなかろう」と、書き、日ごろの安倍政権への距離感の違いが目立つだけに、ゆうちょの限度額問題に限っては「呉越同舟」の観がある。

   郵政民営化がなかなか進んでいないことにも、「ゆうちょ銀が目指すべきは、スムーズな完全民営化であり、そのためにはむしろ規模を段階的に縮小していく方が望ましい」(毎日)、「民営化をどう進展させるのか。点検が不可欠だ」(朝日)、「株式売却の時期など停滞する民営化プロセスの再始動を改めて議論することが必要だ」(日経)、「日本郵政の出資比率が50%以下になれば、新規業務は届け出制になり、経営の自由度が高まる。......ゆうちょ銀行株の売却を着実に進めるべきだ」(読売)と、真剣な取り組みを求める点で、各紙、共通している。

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