2024年 4月 24日 (水)

北方領土交渉「行き詰まり」の真実 法政大・下斗米伸夫教授「アプローチは全く正当です」

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現在の日本のアプローチは「正当」だ

―― 日本政府は、これまでの「4島一括返還」から、色丹島、歯舞群島に共同経済活動を組み合わせた「2島+α」へのシフトを鮮明にしています。これは妥当なのでしょうか。

下斗米: 指摘しておかなければならないのが、「吉田茂首相のジレンマ」です。1951年のサンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄することを表明しましたが、「千島列島は歴史的にはロシア(ソ連)の領土になったことはない」という解説も加えました。国際法上の法的効果を持つのは前者、つまり放棄なわけです。その線で交渉は進み、56年共同宣言に向けた交渉でもソ連側が2島引き渡しの意向を示し、松本俊一・全権代表からすれば「しめた」となった。ところが当時は冷戦下なので、米国の横やりもありました。

―― ダレス国務長官が「国後、択捉をソ連に渡すなら米国は沖縄を永久に領有する」などと揺さぶりをかけた、いわゆる「ダレスの恫喝」ですね。先日、その内幕を松本氏が妻に向けて記した手紙の存在をTBSが報じ、話題になりました。

下斗米: サンフランシスコ平和条約締結当時の西村熊雄条約局長は、日本が放棄した千島列島には、南千島(択捉、国後)も含まれる、と答弁していました。これを公式に転換したのが56年3月の森下國雄・外務政務官と下田武三・外務省条約局長による国会答弁で、日本政府は「北方領土は4島」だ、つまり放棄した千島に含まれないという解釈を示しました。それ以降の日本の世論は、基本的には「4島論」しか聴いてこなかった。56年10月に署名された日ソ共同宣言の「2島+α」論は「伴奏曲」程度にしか受け止められてきませんでした。
   国政政治学者の中には「2島+α」論を唱える人もいましたが、「4島論」の方が声が大きいわけです。それは外務省条約局の主流派、丹波實さんによる、「日本側が4島の北に境界線を引き、当面はロシアの施政を認める」という98年の川奈提案まで事実上つながっています。そしてこれがロシア側に蹴られた。そこで小渕内閣と森内閣で立て直しを進める一方で、プーチン大統領の就任直後の2000年9月の首脳会談で「56年宣言は有効であると考える」と発言しました。その後、外務省はスキャンダルに見舞われ18年経って、やっと日本側の交渉ポジションが「2+α」になった。こういう経緯です。様々な攻め方はあると思いますが、外交は相手のあること、川奈提案の「4-α」が失敗した以上、「2+α」で行くしかない。現在の日本政府のアプローチは全く正当だと思います。ここで合意できれば国境線は固まると思います。
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