2024年 4月 23日 (火)

北方領土交渉「行き詰まり」の真実 法政大・下斗米伸夫教授「アプローチは全く正当です」

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事務次官経験者「国家主権を自ら放棄した歴史上初めての首相」

―― 国境線を引くというのはつまり択捉、国後のこっち(日本)側に引くということですよね。

下斗米:常識的に言えば、そういうことになりますね。問題は両国の世論です。70年近い成果なき交渉の間に、両国政府の世論工作が牢固としてできあがった。双方でその地雷源をどうやって避けていくか。ある段階で、きちんと日本政府は国民に示さなければなりませんが、今言ってもまだ...。本当は静かに交渉を進めながら、きちんと説明するのが本当ですが、世論の政治の時代ですからね。

―― 繰り返しになりますが、ラブロフ外相は「4島の主権を認めるべき」だと主張しています。日本側の立場は「ロシアが不法占拠している」といういうものでした。ここで歩み寄ろうとすると、日本側はこれまでの方針を大転換させる「踏み絵」を迫られそうです。落としどころについて、どうお考えですか。

下斗米:55~56年の交渉では、ロシア側の主張にも弱いところがあります。領土を画定する条約を作るには相手が同意しない限りだめなのです。連合国が全員賛成しても、敗戦国である日本がNOと言い続ける限り国際条約にならない。だから両国とも国内向けの政治を展開してきたわけです。領土やシベリア抑留の問題など、第二次世界大戦の結果は非常に厳しいものでした。そこを沈静化するのにこれだけ時間がかかった、ということでもあります。やっと領土問題に取り組める段階になったともいえますが、人によっては「我々は2度戦争に負けた」という論調もあります。1月28日の朝日新聞朝刊に載っていた石合力・ヨーロッパ総局長のコラムでも、事務次官経験者から「平和時の外交交渉において国家主権を自ら放棄した歴史上初めての首相になる」というメールが来たことが明かされていました。指導者同士が妥協しなければ平和条約は進まないのですが。

―― 今回の首脳会談後の会見では、「8項目の『協力プラン』の具体化を含め、経済分野での協力進展を歓迎」することが表明されました。ですが、北方領土をめぐる交渉が膠着状態に見える中で、カネだけ持っていかれるのではないか、という懸念も出ています。いわゆる「食い逃げ論」です。

下斗米: この議論は双方にあります。まだ国民レベルでの信頼になってないからです。経済協力と領土交渉の両輪を進めることが必要です。今の国際政治全体が、この状況を日本に強いているという側面があると思います。2国冷戦構造は完全に終わって多極化が進んでいます。中国の勢いはロシアをはるかに上回っており、プーチン大統領は欧米による制裁で東方シフトを強めています。今年の新年の辞にあったようにプーチン大統領も「誰も助けてくれない」状況です。そのため、ロシアは日本と仲良くしないと孤立してしまう。トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を加速させるとなれば、日本も孤立しかねません。いかにして日ロ両国が連携するか、最低でも普通の関係を作るか。それが求められる時代になっていると思います。

   クリミア問題より北方領土の方が早く解決できる

―― 4島を「実効支配」しているロシアにとって、交渉に応じる動機はあるのでしょうか。

下斗米:ロシアが抱えている領土問題は2つしかありません。北方領土問題とクリミア問題です。ロシアからすれば、北方領土問題を国際法で処理したという先例を示せれば、世界やヨーロッパ、ウクライナと和解するときに役立ちます。クリミア半島は1954年までソ連邦内のロシア共和国でしたが、フルシチョフ第1書記がウクライナに編入したという経緯があります。ウクライナがクリミア半島をロシアに割譲するかわりにロシアが賠償金を払う、といった可能性はありますが、安全保障上の根拠と宗教上の根拠があの半島にあるので、国境線を決めるのは時間がかかると思います。ウクライナの政権が2つ3つ倒れるくらいの大きな問題で、日本との和解のほうが早い、という計算もあるのだと思います。安倍首相のジレンマと同時に、プーチン大領領の支持基盤をどうやって説得するかという問題はありますが、プーチン大統領だからできる、逆にいうとほかの政治家ではできっこない仕事です。

―― クリミア半島に比べれば北方領土の方が決着がつきやすい、ということですね。安倍首相の自民党総裁としての任期は21年9月までです。任期満了までに何らかの分かりやすい形での成果がなければ、解決は遠のいてしまうのでしょうか。

下斗米: (安倍首相の任期が終わる)3年以内に(平和条約に)サインして次のステップへの道筋がつけられれば御の字ですよね。これはプーチン大統領にとっても大事です。日本の政治家で仮にXさんYさんが出てきて、その人が安倍さんほどロシアに情熱を持つとは限らないし、国際関係がもう許さないかもしれない。そうなると日本は短命政権では無理ですから、「今のうちに刈り取っておきたい」というのもプーチン大統領にはあるはずです。そういう意味では安倍首相と条約上の公約を作り、国際法で縛るというのがプーチン大統領の戦略だと思います。
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