2021年 9月 22日 (水)

保阪正康の「不可視の視点」
明治維新150年でふり返る近代日本(35)
軍人が「事変の早期終結」反対した理由

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機密費で「端的にいって酒も女も自由」

   公債の発行を50億円とし、それを企業や個人が支えるというのが目標だというのであった。昭和14(1938)年度の国民の貯蓄は80億円だからとも言っている。戦争には膨大な資金の投入が必要だというのであった。ところが賀屋は、戦後になって著した自伝(『戦前・戦後八十年』)の中で、「支那事変」が拡大したのは、人心の機微があったと言い、7項目を上げている。事変が拡大して戦闘が激しくなり、戦線が広がれば陸海軍の部隊は増加する。そのことを、賀屋は「どんなことでも自分の関係の勢力範囲が増加するということは人間は本能的に喜ぶ」と言い、そして7項で次のように指摘するのだ。

「高級、枢要の職にあるものについては、機密費も相当に豊富に使える。端的にいって酒も女も自由である。それがいいことか悪いことかは別とするにしても、大抵の人はこれを嫌がるまい」

   こういう恩典に浴した軍人が、「事変の早期終結に反対の作用をするということ」は結果論として間違いがないのではないかと断定している。軍事費の増大は、このような心理のせいであるというわけだ。加えて軍事指導部の軍人たちは後方の安全地帯にいるわけだから、決して死なない。賀屋はそのような矛盾を前提にこうした結論を引き出したことがわかってくる。これで戦争に勝ったら、そのような戦費も賠償金で取ろうというのだから、そこには多くの不合理が含まれているといっていいであろう。まさに戦争は、事業なのである。(第36回に続く)




プロフィール
保阪正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年北海道生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学文学部卒。『東條英機と天皇の時代』『陸軍省軍務局と日米開戦』『あの戦争は何だったのか』『ナショナリズムの昭和』(和辻哲郎文化賞)、『昭和陸軍の研究(上下)』、『昭和史の大河を往く』シリーズ、『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮社)など著書多数。2004年に菊池寛賞受賞。

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