2024年 4月 24日 (水)

「ちゃんと入院させてください」クルド人男性は面会室で訴えた 東京入管「医療アクセス」の現状

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   「人権を無視している。命を助けてください」。クルド人男性の叫びが、室内に響いた。

   昨年1月から東京出入国在留管理局(旧東京入国管理局=東京入管、東京都港区)に収容されている、トルコ国籍のチョラク・メメットさん(39)。J-CASTニュース編集部では、家族や本人の了承のもと、メメットさんに面会した。

  • チョラク・メメットさんの妻
    チョラク・メメットさんの妻
  • 東京出入国在留管理局の建物
    東京出入国在留管理局の建物
  • チョラク・メメットさんの妻
  • 東京出入国在留管理局の建物

メメットさん「なんで入院させない」

   品川に建つ東京入管。記者がメメットさんを訪ねたのは、2019年3月末のことだ。携帯電話などの電子機器は持ち込めず、ロッカーに預け、小さな面会室に入った。

   ガラス板越しに見たメメットさんの顔色はすぐれないように見えた。「歩ける状態だが、5分くらい歩いてすぐ疲れる。体が痙攣して苦しい。胃が弱っていて何も(食べ物が)入らない」。一語一語言葉を紡ぎだして訴えたメメットさん。6人部屋で暮らしているという。

   支援者や家族によると、メメットさんは04年に在留資格「短期滞在」で来日。入国ビザが必要ではなく、日本に親戚もいたからだ。

   少数民族のクルド人はもともと、イランやイラクなどの国で生活をしてきたが、暮らしてきた場所が分断された歴史がある。メメットさんの家族の中にはクルド人の独立国を求める党を支援する人もいるため、国籍のあるトルコに戻れる状況ではない。2004年以来、難民申請を繰り返し行っているが、認められていない状況だ。現在、4回目の申請を行っている。一時的に拘束を解く仮放免の延長をずっとしてきたが認められず、入管に収容された。

家族が「救急車呼ぶ」も搬送されず

   メメットさんが日本社会の注目を集めたのは2019年3月、体調不良を訴えたにもかかわらず、2度にわたり救急車で搬送されなかったことがきっかけだった。

   当時出回っていた支援者などのツイッター投稿や複数の報道によると、メメットさんが体調不良を訴え、家族が救急車を呼んだにもかかわらず、救急搬送されなかった。一連の問題を指摘する支援者らの投稿が、12日夜ごろからツイッター上で相次ぎ、入管側の対応を批判する声が上がっていた。一連の入管側の医療体制について、支援者らは疑問視している。

   メメットさんは前日、入国管理局の難民調査官と話をしたばかりだった。記者が、調査官とどんな話をしたか尋ねると、「ちゃんと入院させてください。話ができない状態と伝えた」と振り返った。医療体制については「適当。聴診器を当てたことがない。検査したことがない」と語気を強めて批判した。

   子どもは、中学生と小学生の計3人いるが、メメットさんとは会えず、不法残留の状態だ。家族5人は、処分撤回の義務付けや在留特別許可を求めて18年12月21日、国を相手にした訴訟を東京地裁に起こした。

   訴状などによると、子どもたちは14年12月に東京入国管理局側から在留特別許可をしない処分がされている。長年日本で育ってきたため、トルコの公用語は理解できない。4月19日には、この裁判の第1回口頭弁論が東京地裁で開かれる。メメットさんは「子どもたちが裁判長の前に立つ。子どもの横に立てない。ありえないこと。日本らしくない。国として恥ずかしくないのか」と語気を強め、次のように話した。

「逃げる可能性はない。本当に日本のイメージがこの建物のせいで悪くなる。私は人間。こんないじめする必要はない」(メメットさん)

   面会時、訪れた妻と窓ガラス越しで手を合わせたメメットさん。終了時間が来ると、職員に抱えられながら、部屋を後にした。妻は、取材に対し「家族がばらばらで大変」と声を落としていた。

車いすに乗ったもう一人の収容者

   収容されているもう一人の男性とも、支援者とともに面会した。

   イラン出身のホセイン・トラービーさん。面会時、車いすに乗って室内に入った。「ご飯もすぐ吐いちゃう」。シャツをめくり、あばら骨の浮いた、やせ細った胴体を見せた。「腰から下がしびれる」とかすれた声で訴えた。検査について聞くと、「3月14日に血をとった。それだけ」と語った。難民申請をしているが認められず、本人はイランに帰れる状態ではないと主張する。

   支援者や入管側に抗議する有志団体の情報によると、09年に来日した。胆のう切除手術を経験。交通事故に遭ってから顎に器具を入れているが、収容中はケアすることができないため痛み、頻繁に吐いてしまう。もともと仮放免の状態だったが、入管に無許可で居所の愛知県から東京都に移動したという理由で、18年6月末東京入管に収容されたという。

   日本で日系ブラジル人の妻と結婚。小学生の娘と生まれたばかりの子どもが静岡に住んでいる。妻が永住権を取得しているので婚姻による在留資格を求めているが、許可は出ていない。第二子の出産に立ち会えるよう仮放免も希望したが却下された。面会時、トラービーさんは「一週間前の仮放免はだめだった。これで3回目。今、4回目を出している。時間がない」と訴え、

「助けて下さい、早く出して下さい」

と力を振り絞って語った。

入管側の見解は

   3月13日にメメットさんの解放を求める緊急共同声明を、ほかの弁護士らとともに発表した児玉晃一弁護士は「直接聞いたわけではない」と前置きしつつ、

「収容や送還に頼る状態を保つのが彼らの収容所のなかの医療の目的。対症療法をしないことが彼らのスタンスで、治すつもりは毛頭ない。そうなると、まともなお医者さんは来なくなります。入管の中では治さなくていいというふうに言われたら、どれだけ高給つまれても行きたくない人がいっぱいいる」

と主張する。

   J-CASTニュース編集部では12日、東京出入国在留管理局にも取材をした。担当者はメメットさんの不搬送について、「(救急車は)入管側が要望したものではない。支障をきたすもの」と答えた。医療アクセスを問題視する声が上がっていることについて尋ねると「批判があることは承知しているが問題ない」と回答。嘱託医の数については、「公表していない」という。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)

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