2024年 4月 19日 (金)

岡田光世 「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
都会と地方の断絶――忘れられた人たちの声を聞く 前編

「アメリカン・ドリームが今も健在なのは、都会ではなく地方」

   ニューヨーク州選出の民主党女性下院議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス氏など、格差をなくして社会主義的な政策を訴える、民主党のなかでもかなりリベラルで左寄りのプログレッシブ(進歩派)な人たちの存在が目立ってきた。とくに2008年のリーマン・ショックの後、「努力をしても報われない」と不満を感じる若者を中心に、急速に支持を広げている。

「それは、人生経験の欠如から来ている部分もある」とナッシュは言う。「税金をまだまともに払っていない僕のような若者たちが、理想を掲げるのはたやすいことだ。でも働き始めて、自分が稼いだ収入の多くが税金に取られていったら、考えが変わっていく人も多いはずだ」

   アメリカン・ドリームが今も健在なのは、都会ではなく地方だ、とナッシュは言う。「アメリカン・ドリームは勤勉と努力によって勝ち取るもので、その価値観が今も根付いているのは、地方だ。都会ではそれが教育にとって変わった」

   トランプ氏が大統領選で地元の人たちの心をつかんだのは、「自分の努力で立身出世した男というイメージを、戦略として巧みに利用したからだ」とナッシュは話す。

   トランプ氏はニューヨークという大都会の生まれだが、「『私は父親からの援助を元手に、不動産王の地位を築き、政治家としての経験もないのに、ホワイトハウスを自分のものにするんだ』と印象付けた。He pulled himself up by his bootstraps.(彼は自助努力でやり遂げたんだ)、まさにアメリカン・ドリームを手にした、と人々は思ったんだ」

   そして、「何より地元の人たちの心に響いたのは」とナッシュは続けた。

「ヒラリーと違って、彼がこの州に何度も足を運んだことだよ。自分たちのことを気にかけてくれている、と思ったんだ。自分たちは忘れ去られてはいないんだと」

   2016年の大統領選で、ナッシュはトランプ氏にもクリントン氏にも投票しなかったという。2020年にトランプ氏が再選すると思うか。

   私のその問いに、この先何が起きるかわからないけれど、と前置きしたうえで、ナッシュは答えた。

「僕の直感では、再選すると思う。多くの人はまだ、忘れ去られていると怒りを感じているからだ」

(次回に続く。随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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