2020年 8月 4日 (火)

幻のW杯からプロリーグ化まで... 元代表監督・日比野先生が語る、ラグビー界の今とこれから

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   2019年は、日本国中がラグビー色に染まった年となった。

   アジア初開催となったW杯日本大会の盛り上がり。そして2020年、今後のラグビー界が進むべき道。これを探るため、J-CASTニュース編集部は、ラグビー界の「大御所」日比野弘氏(以下、日比野先生)に取材した。

  • 日本ラグビーにおける「W杯2019」が持つ意味、また今後について笑顔で語る日比野先生(C)フォートキシモト
    日本ラグビーにおける「W杯2019」が持つ意味、また今後について笑顔で語る日比野先生(C)フォートキシモト
  • 日本ラグビーにおける「W杯2019」が持つ意味、また今後について笑顔で語る日比野先生(C)フォートキシモト

「大御所? にわかファンと同じだよ」

   まず、日比野先生の人となりについて説明しよう。1934年、東京都出身。地元だった都立大泉高を経て早稲田大に入学。ラグビー部では1年からウイングとして活躍した。後に日本代表、早大監督、日本代表監督、早大名誉教授、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)理事、同会長代行...。御年85となられ、70年近く日本ラグビーに携わってきた御仁は、日比野先生をおいて他に見当たらない。

   取材をお願いすると、二つ返事で、

「いいよ。ただ、今はまったくの隠居だから、的確な話ができるかね...。大御所? にわかファンと同じだよ」

と、冗談交じりに笑った。試合は4戦(ロシア戦、スコットランド戦、南アフリカ戦、決勝戦)を、関係者の計らいで現地観戦したそうで、

「本当に素晴らしいものを見せてもらって、非常にうれしかった」

と、満足そうな笑みを浮かべた。

   ご存じない方も多いかもしれない。実は、日本は2011年W杯の招致に立候補していたのだ。結果、落選し、開催地はニュージーランドとなった。この時、大会招致の陣頭指揮を執ったのが、JRFU会長代行だった日比野先生だったのである。

「2011年にW杯を招致しようということで、いろいろと立ち上げたんだよ。でも、それがもし通っていたら...エラいことになっていたんじゃないかなって。代表強化、資金面、運営面...。今、思えばすべてが準備不足だった。怖さ知らずで、随分なことをやったと思う。でも、それ(招致失敗)が今回、かえって良かったのかな」

   今大会の成功は「ケガの功名」だった...。おそらく、日比野先生にしか話せないエピソードを、苦笑いを交えながら語ってくれた。

日本だけじゃなく、世界が「ONE TEAM」となれた大会だった

   2011年は東日本大震災で多くの尊い命が失われた年だ。仮に招致に成功していたとしても、ラグビーどころではなかったことは間違いない。2019年の大会期間中も台風19号の影響で、釜石市(岩手)で開催予定だったカナダ対ナミビアの試合が中止となった。

   それでもカナダ代表は、被災地域の泥をかくなど、ボランティア活動に励んでくれた。ナミビア代表は、滞在先の宮古市(岩手)でファン交流会を実施。どちらも、チームの意志で実現したものだった。同プールには優勝した南アフリカ、最強と呼ばれたニュージーランドといった強豪国がひしめき、上位進出は正直、厳しい状況だった。しかし両国のマインドは、それに勝るとも劣らない感動を与えてくれた。

「オレが『あと頼むよ』と言ってバトンを渡して、頑張ってくれた人たち。これは国の内外を問わず、それから表に出ていない人も含めてね。ラグビーというスポーツの良さが、大衆に受け入れられたんだと思うよ。当初は集客や資金面、運営とかばかり気にしていたけど、そんな危惧は全部、ふっとんじゃって。こんなにうまくいっていいのかな...っていうぐらい大成功だった。すごいことだよね。日本だけじゃなく、世界が1つになれた大会だった」

外国出身の代表も「批判されるどころか、いい方向に行った」

   ところで今回の日本代表は、リーチ マイケル主将をはじめ31人中15人が外国出身選手だった。これに対して、当初は「これが日本代表なのか?」と、一部で否定的な声が聞かれたのも事実だった。しかし蓋を開けてみると、リーチ主将がボールを持った瞬間、スタジアム中に「リ~チ!」の大声援がこだました。

   日比野先生は、

「外国出身選手も批判されるどころか、いい方向に行ったよな。ラグビーをする地を求めた彼らが、日本っていう国を選んでくれて。日本人以上に『歴史を知ろう』とか、『文化に溶け込もう』...とかね。『国籍が違うから、試合に出すべきじゃない』なんてことは、ラグビーにおいて絶対に言うべきではない」

と語気を強めた。

   そんな中、NHK解説としても活躍した日比野先生のベストプレーを聞いてみた。

「ベストトライは稲垣(啓太=スコットランド戦でオフロードパスをつないで代表初トライ)だな。だけど、オレが元ウイングだからって訳じゃないんだけど、福岡(堅樹)、松島(幸太朗)の両ウイングは素晴らしかった。だいたいウイングっていうのは、足は速いけど、不器用なヤツがやるものだから(笑)。でも2人ともハイボールには強いし、ジャッカルにも行けるし、判断も早い。これはすごい選手になったな...と」

   若き日の自身を思い出すかのように、目を細めた。

プロ化は「セカンドキャリア」まで考えるべき

   ところでJRFUは2019年7月、将来のプロリーグ化を実現したいという意向を明らかにした。現状のTLには、プロ契約選手と社会人選手が混在している。

   どちらも一長一短ある。プロ選手の場合、契約によって年間数千万円ともいわれる年俸を手にすることができる。一方で、ケガ等でプレーができなくなった場合、解雇を余儀なくされることも考えられる。

   社会人選手は、主に大学を卒業して企業に就職し、その中でラグビーをすることになる。一定程度の仕事免除はあるものの、プロ選手と同じように「ラグビーだけしていればいい」というものでもない。しかし引退となった場合は企業に残り、チーム運営や選手のリクルーティング活動といったことに従事するなどで、サラリーは得られる。

   プロリーグ化を進めるJRFUに対し、日比野先生は、

「協会がやろうと思うことに異論はない。ただ、プロ化となった場合、セカンドキャリアまで考えてあげるべきだろうな。プロ野球やJリーグでは、そういった取り組みについて考えている...といった話も聞くしね。プロが終わった後、どういう生活があるのか? 例えば、年金みたいなファンドを作るとか。議論をもっと深めていくことが大切」

   一方、今大会を経て「ラグビーをしたい」という子どもたちが増えたことも事実だ。そういった子どもたちの普及や育成については、どう思うのか?

「山(代表)を高くするためには裾野(底辺)を広げないと。2020年は東京五輪があるけれども、五輪の中でも各競技は生き残りをかけた競争だから。TLをはじめ、各チームがいろいろやっているとは聞いているけど、まずは足元固めをしないと。せっかく、こんな追い風が吹いているんだから」

   インタビュー時間は1時間をゆうに超えた。当初は「にわかファン」と笑っていたが、質問するたびに、立て板に水のごとく言葉があふれ出した。

   日比野先生のラグビーに対する情熱を、今後のラグビー界にも引き継いでいきたい。

(J-CASTニュース編集部 山田大介)

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