2024年 4月 20日 (土)

石炭火力めぐる日本批判と擁護論 COP25で「成果」はあったか

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   2019年12月の第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)は、温暖化防止への道のりの困難さを改めて印象付けた。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス削減の国際的なルール「パリ協定」がスタートする20年を目前に、国別目標の引き上げの機運盛り上げを目指したが、採択された成果文書に強い内容は盛り込まれず、新聞論調も厳しい声が並んだ。

   会議の最大の焦点は、排出削減に向けた目標について文書にどういう表現を盛り込むかだった。パリ協定は一律の目標を定めるのではなく、各国の自主的な目標を積み上げる仕組みで、締結時に各国が目標を示した。ただ、この目標は十分ではない。

  • どうなる石炭火力発電(画像は資源エネルギー庁サイトより)
    どうなる石炭火力発電(画像は資源エネルギー庁サイトより)
  • どうなる石炭火力発電(画像は資源エネルギー庁サイトより)

採択文書は「緩い表現」に

   協定は、産業革命後の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えるという目標達成を謳う。しかし、現在の排出を続けると、向こう10年ほどで「2度」を上回る可能性もあり、現在の削減目標のままでは今世紀中に3.2度上昇し、2度に抑えるには各国が削減目標を3倍、1.5度にするなら5倍にする必要があるとされる。そこで、各国は2030年までの削減目標を20年2月までに国連に改めて提出することが求められており、グテーレス国連事務総長は「各国は野心を大幅に高めないといけない」と、目標の大幅上積みを呼びかけ、50年の排出量を実質ゼロにすることも求めてきた。

   しかし、パリ協定からの離脱を19年11月に通告した米国はもちろん、排出量1位の中国、同3位のインドなどは排出削減が経済成長の足かせになるのを警戒して、「我々は国情に基づいて野心的な気候対策を行っている」との声明を出すなど、後ろ向きの国が多い。結局、会期を2日延長してやっと採択された文書は、「(国別目標の引き上げに)可能な限り高い野心を反映するように強く要請する」という緩い表現にとどまった。

   ちなみに、COP25で73カ国が排出量削減目標を強化する意向を示したが、日本は2030年度に13年度比26.0%(05年度比25.4%)減らすとの従来目標の引き上げは表明しなかった。

   もう一つの焦点が、パリ協定の実施ルールのうち「市場メカニズム」と呼ばれるCO2の排出削減量を国際的に取引するルール作り。ある国が他国で取り組んだCO2の削減分を、自国の削減分として計上できるというもので、エネルギー効率が悪い途上国などでは、先進国より少ない資金で効率よく温室効果ガスを削減できるとして、パリ協定に先立つ京都議定書から認められている。今回、パリ協定より前(2019年以前)に削減して残っている分を認めるか否か、また、実際に削減した国とこれを支援した国の「削減の二重計上」の扱いなどで紛糾し、結局、合意できず、20年のCOP26(英グラスゴー)に先送りされた。

環境NGOから「化石賞」

   温室効果ガスをどう削減していくかをめぐり、石炭火力発電にも注目が集まり、ここでは日本が厳しい立場に立たされた。

   石炭火発は化石燃料の中でも天然ガスの2倍以上という多くのCO2を排出するため、グテーレス事務総長が段階的廃止を求め、世界の金融界で石炭火発への融資をやめる動きが広がるなど、国際的に「悪役」扱いだ。だが、日本は国のエネルギー基本計画(2018年7月改定)で、エネルギー源のベストミックスとして、「重要なベースロード電源」と位置づける石炭火力が30年時点で電源構成の26%を占めるとしている。主要7カ国(G7)では、フランスが22年、英国が25年、ドイツも38年までに石炭火発を全廃する方針なのに対し、日本だけが石炭火発の新設を続けるだけでなく、「日本の石炭火発は環境性能に優れる」として海外への石炭火発プラントの輸出を推進しているとあって、国際的な風当たりは強い。

   COP25で演説した小泉進次郎環境相が脱石炭を表明しなかったため、温暖化対策に後ろ向きの国として、環境NGOから「化石賞」を贈られた。小泉氏はこの演説に石炭火発の輸出抑制方針を盛り込もうと図ったが、成長戦略の一環として輸出を促進したい官邸や経済産業省の抵抗で見送ったとされる。

   大手紙は19年11月の米国のパリ協定離脱通告、12月初旬のCOP開幕前後、同15日の閉幕後の社説で繰り返し温暖化問題を取り上げた。

   会議全体については、「温暖化対策の緊急性はわかっても実行に移すのがいかに難しいことか。......温暖化ガスの削減と、現実の政策との開きを見せつけた」(日経12月17日)、「議論がまとまらず、地球温暖化防止の新たな枠組み『パリ協定』に黄信号がともった」(産経同日)など、概して低評価。その中で、環境問題に敏感な東京(同日)が「(採択文書の)表現が緩められたというものの、削減目標を引き上げるというパリ協定の生命線は瀬戸際で守られた」と、肯定的に受け止めようとしているのが目立った。ただ、これは、同社説でも書いているように、「温室効果ガス削減目標引き上げの機運は、保たれたと思いたい」という、多分に願望を込めた表現だろう。

「脱・石炭火力」派の論調

   日本の問題として、特に各紙が取り上げ、論が割れたのが石炭火力、そして原発だ。

   朝日、毎日、東京は脱・石炭火力に重点を置く。

   朝日は「とりわけ重要なのは石炭火力との決別である」(12月1日)、「どんなに省エネや再エネの拡大に努めても、石炭火力を使い続ける限り、温暖化対策を真剣に考えていないとみられてしまう。それが世界の潮流であることを、小泉氏だけでなく安倍首相らも認識する必要がある」(17日)

   毎日「日本が約束する温室効果ガス削減目標も、この計画に基づいて設定された。『30年までに26%削減する』との目標は、国際社会で見劣りするだけでなく、国内の削減への意欲も損なう。石炭火力を温存し続ければ、この目標達成すら危うい。......『脱石炭』の目標を掲げて努力する道を選ぶことが、先進国に課せられた最低限の責任である」(13日)

   東京「世界中の投資家が温暖化がもたらす危険や経済的損失を理解して、石炭火力からの撤退を急ぐ中、まさに『化石』のような国ではないか。......国際的には評価の低いこの目標を引き上げるだけでなく、その裏付けとして今度こそ『脱石炭火力』の道筋を、明確に示すべきである」(17日)

   3紙は石炭ノーと同時に脱原発でも一貫していて、「だからといって原発依存には戻れない。安全対策に膨大な費用がかかる原発は、すでに座礁資産と見なすべきだろう」(東京10日)、「(エネルギー基本計画が)30年の原子力への依存度についても『20~22%』と明記するが、再稼働が困難な現状から目をそらすものだ。再生可能エネルギーの活用にかじを切る時だ」(毎日13日)などとくぎを刺す。

   こうした主張には、エネルギー基本計画が原発の再稼働、まして新設を見通せない現実を無視した数字を改めず、脱石炭の絵も描けない政府への批判が込められているのは言うまでもない。

   この点では、原発は必要との立場の日経も「このままでは日本は公表済みの削減目標すら達成できない。火力、原子力、再生可能エネルギーなどをどう組み合わせて使うか、具体的な方策をあらためて検討する必要がある」(17日)と書いており、腰の据わらない政府の対応への批判ということで、3紙と通じる。

読売と産経の論調の相違点と共通点

   これに対し、安倍政権支持、原発推進の読売と産経は、趣が異なる。

   読売が「日本の取り組みが他国に比べ、見劣りするのは否めない。ただ、資源小国の日本には、エネルギー源を石炭に頼らざるを得なかった事情がある。......(原発は)福島第一原発事故後に全原発が停止し、再稼働も遅れている」(12月16日)と、石炭に頼らざるを得ない実情に、後ろめたさを漂わせつつ、「安全が確認された原発の再稼働を進めて、安定電源を確保する。効率の悪い旧式の石炭火力は廃止を急ぐ。火力への依存度を着実に下げていくことが重要である」(読売16日)と、原発中心の対応を主張する。

   産経は、「原発の再稼働が長期にわたって進まない状況下では、石炭火力を使わざるを得ない。エネルギー源の多様性確保は、日本国民の暮らしに欠かせない要件である。また日本が輸出する石炭火力発電所は環境性能に優れた設備だ。......日本の石炭火力技術は安価で安定した電力を供給する能力を備えている」(17日)と、政権(特に経産省)の主張に沿った指摘。

   その脈絡で「COPの議論は、目的よりも手段の方に目を奪われ、石炭を悪者にして糾弾することで満足した感がある。......世界に先駆けて省エネを進めてきた日本にとって減らせる余地は少なく、26%削減は非常に高い目標なのだ。その達成には原発の復活が欠かせないことへの国際理解を得る好機でもあっただけに残念だ」(17日)と、COPの議論、また日本政府の「説明不足」への批判に力点を置く。その根底にあるのが原発で、「世界の要請に応え、先進国の一員としての責任を果たすには原発再稼働の円滑化が不可避である。安倍晋三政権の急務は、再稼働の遅れの原因の洗い出しだ」(12月2日)、「原発の再稼働や新増設の決断が必要である」(11月7日)と、繰り返し安倍政権の尻を叩いている。

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